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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅷ

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 「奥様代理」として日垣貴仁と共にレセプションに向かう吉谷綾子を見送った日に見た、イルミネーションの青い海。あの時と同じ色が、広がり、押し寄せ、胸の中でさざめく。

 心の中で想うだけ、決して伝えずに想うだけ
 貴女にそれができるのか

 藍色の目をしたバーテンダーの声が、青の世界にこだまする。

『貴女自身、何を望まなければ、最後までお二人の時間を大切にできるのか、もうすでに、ご存じなのでしょう』

 一面に広がる青い光が乱れ飛び、心揺れる者を締め付ける。


「頼んだのは、マティーニじゃなかった?」
 低く落ち着いた声が、青一色の幻想をかき消した。美紗がはっと日垣のほうに顔を向けた時、目の前のカクテルグラスに筋張った手が伸びるのが目に入った。
「これは失礼いたしました。すぐにマティーニをお持ちいたします」
 オールバックの髪が店の灯りの下で上品な銀灰色に照らされている。それを見上げながら、美紗はマスターの申し出を断った。
「このままで、いいです。ブルーラグーンも、……好きですから」
「そうですか。恐れ入ります」
 マスターは、申し訳なさそうに眉を寄せ、静かに頭を下げた。そして再び、青と紺の合間のような色のカクテルグラスを、そっと美紗の正面に置き直した。
「この色、鈴置さんの『イメージ』だったんでしたね」
「あの時のバーテンダーさん、今日いらしてるんですか?」
「以前お世話になった、うちの新人ですか。今日は入っていないんですよ。ただ、この間、鈴置さんのイメージでカクテルを作らせていただいたと、彼から聞いていたものですから」
 当人の顔を見たら急にその話が頭に浮かんでオーダーを勘違いした、というようなことを言って、マスターはまた頭を下げ、しきりと恐縮しながら去っていった。