青春スプレヒコール
「騒ぐな、って恋人さん達よ。俺の第一信条である非カップル三原則を忘れたのか」
「知らん」
「何、それ?」
矢沢に対して、素直に突っ込むのが本当に面倒臭く思えた――でも、彼には悪気など無い。誰もが必ず一度は持つであろうそんな感情だった。きっとあの【季節】にいた頃の私も持っていた感情だろう。
「『恋人を持たず、作らず、持ち込まさせず』だよ」
「持ち込まさせず、って……」
クラスメイトの一人が噴き出すと、通路からこの様子を見ていたであろう五組の面々がくすっ、と笑いを堪えているのがよく見て取れた。その彼らの中には、木原・土田の演劇部勢と松田さんを始めとする女子が数名いた。
「それは、ザワ個人の事じゃん。他人の幸せを邪魔する権利は誰にも無いよ。だって、日本国憲法第一三条に書いてあるもん。『すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り』……」
憲法や法律を自在に操りながら、矢沢に対して鋭い突っ込みを入れる有原の口を伸路が塞ぐ。
「アーリー、もう良いって。今日は思い切り楽しもうよ」
「……分かった」
矢沢は自然と、一生懸命な彼らに納得させられていたそうだ。
その後も三組の皆による楽しい宴は展開されていたのだが、当然の事ながらこの件をきっかけに、私と伸路が付き合っているという情報は三組だけでなく五組にも広まる事になっていくのは言うまでもない話だった。
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青春スプレヒコール 第1話