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安堂 直人
安堂 直人
novelistID. 63250
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幸せの青い鳥

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「幸せの青い鳥」








 どうやら、SNSは現代社会の縮図らしい。
 テレビの報道番組で特集が放送されていた。
 有名人が「おやすみ」と挨拶すれば「いいね」。
 カップルが「大好き」を連呼すると「リプライ」。
 「ぽ」の一文字を呟けば、大量の「リツイート」。
 しょうもない。
 実に情けない。
 無意味なツイートが日本中に拡散され、それが沢山の人々に支持されているという悲惨な現実――これはきっと、世間に溢れる格差社会の縮図を物語っていると言わざるを得ない。
 結局、この世は金と知恵と見た目。この三大要素が人間を決める、いや、決めてしまうのだ。心が無垢で純粋な人々は、今までどれだけ苦しんできたのだろうか。
 「おやすみ」って独り言をSNSで呟く人間の大半は、平穏な夜に出逢いを求めているはずだ。何か危険な匂いがするのだが。
 SNSでイチャイチャしているカップルは、大体すぐに別れる。嘘だと思うなら、一度見ると良いだろう――背景が黒一色の旧カップル垢の焼跡を。
 そもそも、世界中に拡散された「ぽ」を見て凡人は何を想うのか。そういえば昔、この文字を連呼していた芸人がいたような、いなかったような……。

 僕も、SNSは一応やっていたりする。
 フォローしている人物が四千人、そしてフォロワー数が八百人くらいの趣味垢である。フォロー人数とフォロワー数の割合で決められるという、所謂「FF率」という指標は、数字が大きれば大きいほど人気者であるという事を表している。一つ例を挙げるとすると、フォロー人数が二百人・フォロワー百人のアカウントなら、FF率は0.50となる。この数字が1.00を大きく超えれば、人気者アカウント。それを大きく下回れば、不人気アカウントと言われる。故に、僕の持っているアカウント(FF率が0.20くらい)は、後者となる。
 「いいね」や「リツイート」等のインプレッションもさほど多くはない。片手で数えられるレベルの少なさだ。毎回、仲の良い同趣味勢数人がたまに押してくれる程度である。
 いや、そんな事はどうだって良い。
 短所を自虐したって、何も変わらない。
 実際、インプレッションを貰う為だけに、SNSの類をしている訳では無い。同趣味の連中を集めてワイワイガヤガヤするのが、あくまでも第一の目的だ。
 僕はパソコンの画面を開けて、唐突に一言呟く。


→【如月】
 『ねえ、神様。
 幸せの青い鳥は、いつやって来るのですか?』


 再び、僕はSNSを徘徊し始めた。その後、数分画面を眺めていると、とあるツイートが僕の目に映った。どうやら、荒居奈央が入籍したそうだ。
 インターネット上の某フリー百科事典によると、彼女は三十一歳。今は、僕と同い年らしい。近いうちに誕生日を迎えるそうだ。職業は、女優。これまで数々のドラマに出演し、そのうちの何本かで主演を務めた事もある。昼間のワイドショー番組でタレントとの入籍を今日発表し、都内某所で近日結婚式を挙げるらしい。
 なんとも、おめでたい話だ。
 僕は「リア充のSNSが腑に落ちない」という趣旨の発言をしていたのだが、好きな女優の場合であれば例外だ。僕は率直に彼女の事が好きだし、尊敬を通り越して崇拝すらしている。
 彼女は素晴らしい人間だ。
 故に、彼女のツイートには多々のインプレッションを送っている。
 僕がそんな事を考えていた時、画面上には一件の通知が来ていた。
 珍しいものだと思い、僕は通知一覧の画面を開いた。


 →返信【ミサ】
『信じていれば、願いはきっと叶う。
 私がまだ幼かった頃、夢の国で教えてくれたんです。』


 先程返信してくれたミサさんとは、最近SNSを介して会話をする機会が増えた。主に共通趣味のゲームの話題が中心である。
 ミサさんの呟きには、自ずと笑みがこぼれてくる。
 僕にも、彼女の様な言葉選びのセンスが欲しい位だった。この感情を他人に嫉妬と表現されても、否定は出来ないのだが。


 →返信【如月】
 『ミサさんがそう言うなら、僕は信じてみようかな。
 幸せの青い鳥が僕にやって来ますように、って。』


 僕はミサさんに、何だか一握の勇気を貰った気がした。







 それから、少し経ったある日の事。
 ミサさんの言葉を信じて、僕は青い鳥の到来を待ち望んでいた。
 しかし、報われる事は無かった。
 結局、この世は金と知恵と見た目――そういう事なのだろう。
 喉が渇いていた僕は、自動販売機に五百円玉を入れた。からんころん、と古臭い音がした後、缶ジュースが一本だけ下から出てきた。そして、無性にもルーレットが始まりだした。同じ数字が四つ揃えば、当たりになる形式だ。万一当たったとしても、二本目は要らないのだが。
 ぴぴぴっ。
 三つの「8」が揃う。
「もしや……」
 僕は、電子画面を注視していた。
 ぴぴぴぴ、ぴ、ぴ、ぴ、ぴぴぴっ。
 冷たい電子音が辺りに鳴り響く。
 案の定、一の位は「9」だった――結果はハズレだ。
 それどころか、お釣りも返って来ない。お釣りの四百円と、この無駄な時間を返してほしい。最早、お金なんてどうでも良いから、後者だけでも返してほしい。
「あーあ」
 不運すぎる。
 僕は、弱い溜め息を吐いた。溜め息をしたら幸せが逃げていく、というのは迷信に過ぎないと思うのだが。
 ただ、暫く待ってもお釣りが返ってくる気配が無いので、僕は自動販売機を強く叩いた。壊れていた立方体型テレビのてっぺんを叩くとテレビが点くという、昭和の昔話の応用なのだが。
 僕がそれを二度ほど叩くと、不意に四本の缶ジュースが出てきた。元々出ていた一本と合わせて、合計五本。一本百円が五つで五百円という訳か、うん。なるほど。
 それでも、何だか腑に落ちない。
「……五本もジュース、要らないので」
 ペットボトルならば途中まで飲んだ分をキャップで閉じて保存できるのだが、缶ジュースは一度開けてしまえば閉じる事は出来ない為、一気飲みをする必要がある。
 不運だ。いや、むしろ幸運なのか。
 一瞬の事だと考えてしまえば迷惑な話だが、これが数日規模の話になってくると暫くの飲み物代を節約する事が出来る――訳でも無いか。
お釣りは結局返ってきていない。形式上は、五百円で缶ジュースを五本買っただけだ。
プラスマイナスゼロだ。
 お釣りは返ってくるはずもないのか。
 まあ、良いか。別に良いのか。どうせなら、この貴重な体験をツイートすれば良いのだ。今の謎感情を、呟きに昇華させれば良いだけの事だ。
 僕は鞄のファスナーを開けて、スマートフォンを取り出した。そして、この自動販売機の写真を撮ると、僕は一言呟いた。


→【如月】
 『この自動販売機、壊れているかも。
 たくさんジュース出てきたし。』


 ぷるぷる。
 突然、僕のスマートフォンの通知音が鳴った。
 巷でよく流れている人気曲等ではなく、シンプルな着信音だ。


→返信【ミサ】
 『私、今この近くにいます。
 丁度良かった。
 如月さん、会えませんか?
 共通の話題で、ゲームの話なんかをしたいので。
 そこで待っていてください。』

作品名:幸せの青い鳥 作家名:安堂 直人