遅くない、スタートライン 第2部 第2話
(1)
俺とみぃちゃん…いや、これからは美裕と呼ぶ。みぃちゃんもいいけどな…一度、美裕と読んだらこっちの方が響きがいいや。
俺と美裕は上気した顔で、VANに乗り込んだ。このVANは管理会社所有だった。俺、事を決行したら運転する自信がなかったから。俺小心者だって言ってるだろうが!普段お調子者だけどよぉ。ま、昨日の昼間に内装工事が完成してウォッシュも済んだと連絡があったから、昨日…駅で美裕に逢わなくても、夜に電話しようと思ってたんだ。でも、神様は俺に駅で美裕を逢わせてくれて、今日の機会を作ってくれたと思ってる。
VANから降りて、マンションの部屋に帰った。途中で美裕を自宅の前で下した。美裕なりにまだ考える事もあるだろうし、俺もちょっと気疲れしたから、横になりたいと思った。部屋に帰ってソファで横になった途端、俺は睡魔に襲われてそのまま寝てしまったようだ。どれぐらい寝ただろうか?上着のポケットでスマホの振動音が聞こえた。
「寝てたの?ジャケット着たまま…マサ君」美裕はキッチンの中から俺に言った。
「うん。ちょっと横になろうと思って、クッションに顔をつけたらグゥゥ…と」俺は頭をかいた。
「はいはい。私も少し家で寝てきたの。心平静に戻すのに、ドキドキして寝れないかと思ったけど。マサ君と一緒!1時間熟睡しておなかが空いたから目が覚めて、ほらさっきはお昼も食べずに別れたじゃない。マサ君もハラいえ…おなか空かせてないかと思ってラインしたの」
美裕は起きてから、調理したみたいで家から持ってきたタッパを電子レンジの中に入れた。
「うん。美裕のライン見て料理名見たらおなかの虫が鳴きだした。もぉ…今はヘリヘリ状態だ。俺のおなか」
「はいはい!今温めてるから服を着替えてね。そのジャケットは昨日買ったばかりでしょ。マサ君」
「うん。あ、そこのレディースブランドの袋見て。俺から美裕にプレゼントだ」
ソファの横に立てかけてあった袋を指さした、マサ君だった。
美裕は早速着替えてくれたみたいだ。俺が買ったキャラのホームウエアに。
「ありがとう!好きなキャラで揃えてくれて、これはここで着るもの?」美裕は笑いながら言った。
「うん。美裕お泊りセットの1部だ。後こんなものも買った!」今度はテレビボードの下の引き出しを開けてバスケットを取り出したマサ君だ。
私の作ったグラタンとサラダを満足そうに食べて、また買った物を披露してくれたマサ君だ。私もこれは渡さなきゃいけないな!クリスマス分は後で渡すとして、リュックサックの中から紙袋を取り出した。喜んでくれるかな?
帰り道…バス停まで送ってくれたマサ君は、時々指でマフラーを触っていた。
「ありがと…俺このカラー好きなんだ。大事にするよ」
「イエイエ…喜んでいただけて嬉しいです。私こそいっぱい頂きましてありがとうございます。マサ君は年内の予定はどう?」
おや…俺が切り出す前に美裕から聞かれるなんて。
俺は美裕を送ってから、マンションには帰らずにそのまま知り合いの不動産会社に顔を出した。年内にマンションの売却を話した方がいいかと思ってさ。新築で3年しか住んでないし、部屋もまだ綺麗だと思う。俺はタバコは吸わないし、ダチが来てもタバコは吸わせなかった。今のマンションに置いてある物も整理して、不要な物は処分しなきゃ。美裕も同じ事を言ってた…カフェを開店するにあたって、当初の考えでは1階の庭とリビングとキッチンでカフェをするつもりだったが、もう少しスペースを取ってもいいんじゃないかと思ったそうだ。美裕は美裕の考えがあるらしいが、俺にこんな事を聞いてきた。
「カフェでも個室ってあってもいい?そんなに大きいスペースは取れないけど、ドアつけてデスクとチェアー入れてね。最初にドリンクとスィーツとか軽食をオーダーしてもらって、タイム制で30分〜最長2時間までいれて、必要があればオーダーも受けつけるのはどうかな?カフェで友達とおしゃべりも楽しいけど、1人になりたい人もいるかなって」この考えには俺はちょっと驚いたけど、美裕が言ってることは現代ニーズにかなってると思った。
俺にはまた、インテリアデザイナーのダチと一級建築士との相談に同席してほしいと美裕は言った。予算は大丈夫なのか、その点は心配したが。パティシエ時代に貯めた貯金と、両親が遺してくれたものもあるから大丈夫だと言った美裕だ。パティシエ時代は激務で休みの時は1日爆睡して、年頃の女の子はおしゃれをする暇もなかったそうだ。そう言うことならな!早い方がいい。俺は不動産会社の後にインテリアデザイナーダチのオフィスに行くことにした。
作品名:遅くない、スタートライン 第2部 第2話 作家名:楓 美風