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Ex.

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「音楽性の違いですよ、元々俺たちはそれぞれ違うバックボーンを持つミュージシャンの集まりです、Ex.となってそれが予想外の化学反応を起こしてくれた、だから一緒にやって来たんです」
「つまり……もう化学反応は起きなくなったと言う事か?」
「今でも化学反応は起きてますよ、ただ、思う存分やって、もうこれ以上新しい化学反応はないな、と感じたんです、それは康平、拓也、純も同じ意見でした、だったらそれぞれが一旦自分のバックボーンに戻って、新しい事を模索したほうが良いんじゃないかと」
「……」
 その時、大原はバンド名の由来を思い出していた、Ex.はExperiment、『実験』の略、Ex.は言わばそれぞれ別々の分野を専門とする科学者が、新しい物、画期的な発明品を作り出すために集結したようなものなのだ、共同研究に一定の成果が得られたならば、それぞれの専門分野に戻って行くのが自然なのかもしれない……。

 メンバーから提案されたDisk-2、それは個々のメンバーが自作の曲を自分でプロデュースし、思い通りのサウンドを作り出すために他のメンバーが協力する、と言う形で進められた。
 もうそこに大原が入り込む余地はなかったが、彼はそのレコーディングの様子を興味深く観察していた。
 『音楽性の不一致』を理由に解散するバンドは多い、長く一緒にやっていれば目指す音楽の形に差異が生じることは当然あるだろう、だが、Ex.の場合は最初から個々のメンバーが目指すものは違っていたのだ、ただ、たまたまメンバーが一つの理想形を共有できた、そしてその理想形は完成を見た、だからもうEx.を続ける意味はなくなった、そういうことなのだ。
 むしろ、その理想が結実した瞬間に立会えたこと、そしてそれに関われたことを幸運だったと考える他ないのかもしれない……。

 3rdアルバムのリリースと共に、Ex.は解散を表明した。
 記者会見の席上、『もうメンバーが一緒にやることはないのか?』と言う質問に翔はこう答えた。
「いや、彼らは皆素晴らしいミュージシャンですからね、力を借りたいと思う事はあるでしょうし、俺の力を借りたいと言ってくれたらはせ参じますよ」
 その言葉に他の3人も力強く頷いた。
『実験』は終了したが、力量を認め合った者同士、協力体制を取ることは厭わない……その解散もまた理想を追うEx.のメンバーらしいものだった。

♪    ♪    ♪    ♪    ♪    ♪    ♪    ♪

 その後、大原はプロデュース業を続ける傍ら、ライブハウスを開設して新しい才能の発掘にも乗り出した。
 Ex.の一件で大原は少し考えを改めたのだ、今まで飯の種を提供してくれたロックに恩返ししなくてはいけない、ロックが今後も衰退することがないように尽力しなくては、と。
 そしてEx.に匹敵するようなバンドを世に出してみたい、それがロックに対する恩返しであり、また、今後もロックで飯を食うためには大切なことでもあると考えている。

 名を馳せたプロデューサーが開いたライブハウスであり、厳しいプロの目が厳選したバンドが出演するのだからその実力は折り紙つき、レベルの高いバンドが出演するライブハウスとして連日活況を呈している。
 そして、そこに出演すると言う事はプロへの足がかりともなりうる、出演を希望するバンドは引きも切らない。

 常連となっているバンドの中に大原が特に注目しているバンドがある、リーダーはストイックな雰囲気を漂わす努力家、最近のロッカーにはなかなか感じられなくなった気骨が感じられ、音楽性も高いものを備えている、他のメンバーも腕利き揃いでタイトでハードなサウンドを叩き出すのだが、今の若者にウケる要素にいまひとつ乏しいきらいがある。
 そして、そのバンドはヴォーカリストが脱退したばかりで新しいヴォーカリストを探しているのだが、大原も彼らのサウンドに合うヴォーカリストはいないかと気にかけている。
 変に今の好みに迎合するより、リーダーと同じような気骨を持ったヴォーカリスト、魂で歌うようなヴォーカリストが良いのではと思っているのだが……。

 そんな折、ライブハウスを開く時に世話になった弁護士の田中から一本の電話が入った。
「私が弁護を担当した歌手がいるのですが、一度歌を聴いてやってくれませんか?」
「良いですよ、どんな歌手なんですかね?」
「私はロックにはあまり詳しくないのですが、なんでもブルースロックの歌い手で、ジャニス・ジョプリンに憧れて影響を受けたそうなんです、芸名もPlinと……奔放過ぎるところはありますが、心根はまっすぐな娘なんです」
「ははは、田中さん、いやに肩を持ちますね」
「まあ、それは……その……」
「いや、私も彼女に興味津々ですよ、是非歌を聞かせてもらいたい位です、もしかしたら私が今正に探しているヴォーカリストかもしれないので……」



(終……もし本作がお気に召したならば、拙作『Plin』 http://novelist.jp/83306.htmlもお読みいただけると幸いです、とさりげなく???誘導w)
作品名:Ex. 作家名:ST