遅くない、スタートライン第2部 第1話
(1)
世間は、クリスマスだ正月だと浮きだっている。去年の俺は〆切に追われていて、クリスマスや正月の気分じゃなかった。ま、煮詰まった俺が悪いんだけど。都会から離れて、郊外のホテルの部屋でずっと仕事してた。去年は散々だったよ!原稿が仕上がった時は、もう世間は正月も終わってた。ダチと遊ぶにもみんな仕事を始めていて、誰とも遊べなかった!でも今年は違う・違うんだ!
俺はみぃちゃんと気持ちが通じた日から、毎日にみぃちゃんちに来ては1階の片づけをして、その後みぃちゃんとデートした。みぃちゃんも片づけを始める当初は、力仕事は業者に頼もうかと思っていたが、俺が買って出たからそりゃ喜んだ。俺ヒトリで手が足りない時はダチも使ったさ。ダチにはみぃちゃんのお手製料理に、後で俺から呑みゴチとでな。ダチも喜んでくれたさ。まぁ、帰りに散々ダチ達に冷やかされたけどな。
みぃちゃんはその日別件で、午前中の片づけの後に出かけた。俺には夕方またラインすると言って駅前で別れた。俺はマンションに帰りみぃちゃんの連絡を待っていた。俺は昨日の時点で年内最終の原稿も送信したし、今日はみぃちゃんに交渉もした。交渉事はみぃちゃんちの石畳をしばらく貸してほしいと。石畳を見ていると構想が湧きそうだとみぃちゃんに伝えた。みぃちゃんは快くいつでもどうぞと言ってくれた。寒いからちゃんと着込んでお使いくださいと言ってくれた。ま、それは後日の話だ!今はもうすぐ近づくクリスマスの事を考えなきゃな!今からじゃリザーブも難しいか…ダチコネを使いまくるか!俺はパソコンでネット検索をし始めた。
「うーん…」俺の耳元でなんか鳴ってるぞ?目を開けたら、ラインが表示されていた。おぉ…みぃちゃんだ!俺…いつの間にか寝てたんだな。スマホをフリックしてみぃちゃんからのメッセージを読んだ。あぁ、こりゃ返信するより電話しよぉ…俺はスマホを耳につけた。
1時間後…俺はみぃちゃんを駅の改札前で待った。あぁ…でてきた!なんだ…また両手に大荷物だぞ。みぃちゃんは俺を見てニッコリした。
「どうしたん?その大荷物!」俺は発泡スチロールの箱を1つ持った。
「手土産でもらっちゃった。あぁ…言ってなかったわ。お姉ちゃんとお義兄さんと姪っ子はアメリカにバカンスに行ったの。お姉ちゃんの長男君がアメリカに在住してて、10月に赤ちゃんが産まれたの。お義兄さんの会社休み待って初孫見に行きました。正月5日まで帰ってきませんの。で、今日成田から出発して帰りに、パティシエ時代のダチが近くに来てるなら寄れ!と…実家が魚屋さんで持って帰れ!と…この小柄な私に発泡スチロール2個も手渡したの」
「えぇ…お姉さん達アメリカなんかぁ。初孫かぁ…そりゃ見たいわ!うんうん…で、みぃちゃんにはいい子でお留守番してなさいか?そのダチもまぁ、太っ腹だな。これ、氷入ってるから結構重いけど?何…これ?」
「マサ君…お刺身好き?」みぃちゃんは、俺の顔を見てまた笑った。
俺のマンションに来て、みぃちゃんはすぐに発泡スチロールのふたを開けた。
「おぉ!!すっげぇ!!エビ生きてる!イカも!!えぇ…こっちは?」
もう一つの発泡スチロールは、ダチさんが裁いた刺身がパック詰めされていた。
「はまちぃ…まぐろぉ…サーモン…ほたてだよぉん。あぁ、このダチは俊君と言ってパティシエ時代のメーカーの配送の子!実家のお父さんがヘルニアでお店立てなくなって、実家帰って魚屋さん継いだの。年代が同じだったから、話があってね。休憩中に俊君と俊君の彼女だった奥さんとよぉ話したわ。で、先月かな?偶然…スクールの前道路で逢ってね!で、ライン復活したの。俊君の奥さんとも…」嬉しそうに話すみぃちゃんだった。
「へぇ…そうなんだ。パティシエ時代のみぃちゃん達の会話も聞いてみたいわ。どんな事話してたか?」
「愚痴…小さい声でやってられへんわぁ!とか、マジ手伝ってとか、俊君らも同じ事言うてたぁ。で、物々交換…コーヒーやスナック菓子とかサンプルで焼いた試食とかね。ま、それは私が家で焼いた分ですけど」
「ショップで仕事して、家でも焼いてたん?」俺は驚いた。
「ですよん。そんなことしてたら、家帰られへん!パティシエ時代は朝の5時から夜の9時まで働いてたよ。朝から仕込むのもあるけど、前日に仕込みせんといかんものあってぇ…家帰ったら10時だよ!でも寝る時間削っても、焼きたいモノもあったんだ。いつか自分の作ったケーキがショップに出せたらと思って頑張りましたわ」
「ハードだな。それ8年間でしょ?結婚時代も同じ勤務体制だったの?」
「うん。だから…うちはね。ップップ…先生が主夫してた。私…家事も何にもしなかった。だからダメ奥さんなんだ」
「ダメ奥さんはないだろう?先生は嫌々してたわけじゃないでしょ?」
「もぉ…仕方ないなって言いながらね。先生の作ったご飯食べながら居眠りしてる私の頭…よぉなでてくれた。あぁ…今日の夕飯これでいい?俊君のお父さん直伝の海鮮丼のタレももらったし」
「うん。じゃ俺も盛り付け手伝うよ」俺はキッチンで手を洗った。
作品名:遅くない、スタートライン第2部 第1話 作家名:楓 美風