「空蝉の恋」 第七話
「じゃあ、ご主人と仲良くしないとダメって言うことになるのよ」
「そうなの?私はあなたとのお付き合いもあるし、特に不満なんか無いから老けたりはしないと思っているわ」
「ならいいけど・・・そう別の部屋で寝るのね」
恵美子は意味ありげな言い方でそう話すと電話を切った。
「ママ、お友達からだったの?」
「そうよ。ほらテニス始めた恵美子さんからだった」
「いいお友達が出来たんだね。そう言えば最近ママ綺麗になったって思う」
「ほんと?あなたに言われると嬉しいわ」
「パパ勿体ないわよね、こんな綺麗なママを・・・」
そう言いかけて言葉を濁した。
あとは言わずとも分かることであったが、ベッドで目を閉じると恵美子から言われた恋愛を感じてないとダメという言葉が、妙に思い出されて気になってしまった。
夫婦とはいつまでも恋愛の延長ではないけど、たまには若い頃のようにドキドキすることがあってもいいんじゃないのかと思えた。
春樹は一人部屋で誰かに電話をしていた。
それは決して聞かれてはいけないものだった。
「すまないな。おれのミスで女房にバレちまったよ。この穴埋めはするから今は我慢してくれ」
「もう~ドジなんだから。私たちのことがバレたらどうするの?離婚して私と結婚してくれるの?」
「おいおい、それは言わない約束だろう?」
「だったら、慎重にしてよ。今度こんなことになったら別れるから覚えておいてね」
「わかったよ。怒るなよ。お土産買って帰るから」
「奥さんと行った旅行のお土産なんか要らないわよ、もう、全然わかってないんだからあなたって言う人は」
「年が明けたらすぐに帰るからそれまでに機嫌直してくれよな?」
「本当ね?」
「ああ、本当だよ」
春樹はどうやら彼女が出来ていたらしい。東京での寂しさと、佳恵の態度に逆恨みしてか、出会い系のSNSで見つけたのだ。
時代は便利になった。
独身者同士の恋愛をサポートする仕組みは昔からあったが、不倫をサポートする仕組みはインターネットとスマホの普及だった。
春樹も夜な夜なパソコンを触っているうちにそういうサイトを見つけて、何度もアタックして辿り着いたのだ。電話の向こうの女性はバツイチの独身だった。
作品名:「空蝉の恋」 第七話 作家名:てっしゅう