「空蝉の恋」 第六話
「お待たせ」
「こちらテニス仲間の内田さん、この人は私のお友達で内藤和仁さんって言うの」
「内田です。初めまして」
「内藤です。初めまして」
「じゃあ出かけましょうか。和仁さん乗せていってくれるよね?」
「ああ、もちろんだよ」
私と恵美子は内藤の車に乗って近くのファミレスに行った。夫がいる身で男友達を誘うということがどういう意味なのかは考えなかったが、彼女は同級生だと話してくれた。
「佳恵さんね、ご主人が東京にいらしてずっと独りなのよ。私と週に一度テニスして、エアロビダンスして仲良くしているの、ね?」
「ええ、なんだかこの頃充実しているなあ~って感じさせられるわ」
「それは良かったですね。一度ゆっくりお話がしたいから、三人でどこかへ行きませんか?」
「ええ?旅行ですか?」
「そんな大げさなものじゃなくて、例えば温泉に日帰りで行くとかでいいんです」
「それいいね、佳恵さん行きましょうよ」
「そうね、でも年末年始に家族で旅行するの。夫が勝手に予約してて・・・」
「いいじゃないの。ご夫婦で仲良くされるだなんて、ねえ和仁さん?」
「そうですよ。年が明けたら初詣兼ねて行きましょう。年末は何かと忙しいでしょうからね」
「それがいいわね。私はどこへも行かないから、年明けにでも行けたら嬉しいわ。そうしましょうよ、佳恵さん」
「そうね、いいわよ」
和仁が何故私を誘って温泉に行こうと言い出したのか、このときは解らなかった。むしろ恵美子と和仁とに何かあるのかも知れないと疑っていたぐらいだった。
このときからエアロビとテニスのあとは和仁の話題が出てくるようになっていた。次第に私は恵美子が和仁のことを好きだと思うようになった。
私を誘ったことは、夫がいる身で二人だけで出かけることが、はばかられるからだろうと考えた。
事態は私が想像していたこととは全く違う方向へと動いて行く。
年末が来た。
久しぶりに夫と娘と三人で出かける。
ツアーは名古屋駅のバスターミナル集合だったので、地下鉄に乗って集合場所へ向かった。
さすがにこの時期旅行客が多く、狭いバス乗り場に人があふれていた。
ツアー担当者が大声を張り上げて集合場所を教えていた。
荷物を預けて、車内へ乗り込み、ツアーは目的地に向かって出発した。
作品名:「空蝉の恋」 第六話 作家名:てっしゅう