デビュー前夜に…
朝が来て、目を覚ました。
「夢か…」
ふと俺は自分が何かを抱えているのに気付いた。見ると、俺の胸にはスズランの花束があったんだ。残ってた眠気が、それで一気に吹き飛んだ。
(夢じゃなかった……?)
朝ご飯のとき、俺が夕べ見た夢と、いつのまにか抱えてた花束のことを母さんに話すと、母さんはこう言った。
「…もしかすると、父さんは神様のお許しをいただいてここに来て、プレゼントをあげたのかもしれないわね」
それを聞いて、俺は胸の前で指を組み、しばらく目を閉じた。
ちょっとの間静かになったあと、母さんが話を切り出した。
「ところで、スズランの花言葉はね、『幸福の訪れ』だそうよ」
「幸福の訪れ?」
「そう、『幸福の訪れ』」
スズランの花言葉を知って、俺の胸はくーっと熱くなった。そして…。
「母さん」
俺は椅子から立ち上がった。
「ん?なあに」
母さんの真正面に立つと、心からの感謝の言葉をかけた。
「俺を産んでくれて、ありがとう」
そして、強くハグした。母さんは涙をこぼして、ハグを返した。
「おまえこそ、産まれてくれて、ありがとう」
このときの俺と母さんの間に、これ以上の会話は必要なかった。
これから先、嫌なことがあっても、父さんと母さん、そして仲間たちのことを思い出せば、乗り越えられそうだ。心からそう思うよ。