ツイスミ不動産 物件 X
これはラッキーなのか、1週間後に「ご期待の終の棲家、豹猫島に見つかりました。高台の敷地500坪に建つ築100年の洋館でして、猫ちゃん飼い放題です。ぜひご一緒に物件の確認に参りましょう」と女性課長が畳み掛ける。
F夫妻はこの勢いに負け、気が付けば日に2便しかない連絡船に乗船。そして今、茫洋とした大海が望めるトンガリ帽子の洋館にいる。
確かにここでは誰に遠慮もなく猫ちゃんと暮らして行ける。その上に島の案内人が「ほら、あそこの枝で、豹猫が休んでますよ」と背後の森に向けて指を差した。
これに促されて持参した双眼鏡でF夫婦が交互に覗く。
「あらららら、豹柄の猫が、えっ、あの子たち、ベンガルヤマネコ?」
思わず驚きの声を上げた夫人に、「多分、この島生存の家猫のDNAから古代豹猫が蘇ったのでしょう。その後私たちの努力の甲斐ありまして、今は野生化し、数十匹が森で暮らしてます」と島の案内人が胸を張った。
素晴らしい、豹猫がいる島で暮らせるなんて、と興奮する夫妻に、カサリンは伝えておかなければならないことがある。
「敷地内では、豹猫の生き餌となるネズミを飼育して、森に放ってくださいね」
さらに案内人がシレッと「それが島民の役目です」とダメ押しをする。
これにギョッと眼を剥いたシニアカップルが深い沈黙の1分後、「ところで、お値段は?」と一番肝心な質問を投げ付けてきた。
ご一同様に緊張が走る。
しかし、ここに役割分担がある。価格発表は紺王子宙太の役目だ。一拍後、恐い上司をチラ見し、辺り一帯に猫語を轟かせたのだった。
「お値段は、8百ニャン円で〜す!」
作品名:ツイスミ不動産 物件 X 作家名:鮎風 遊