ツイスミ不動産 物件 X
う〜ん、なるへそ!
普通ならここで不動産屋は尻尾を巻いて退散しなきゃならない。
しかし営業責任者のカサリンは違った。ズカズカと前へと進み出て、向こう岸へと指を差す。
そして唐突に、「あの大木を見てくんなまし。あれは一本桜どすえ、祇園夜桜の一重白彼岸枝垂桜と同種なんえ」と。
こんな遊女か舞子か判別付け難い語りに、爺ちゃんはおおっと仰け反る。
この反応に調子付き、課長が提案する。
「あの横に一軒家があります。残された人生、花咲か爺さん、桜守りとして生きてみませんか?」
すると男は「なるほどね、着地はここだ」と人差し指を強く縦に五度振る。
されども婦人は無表情。
なぜ?
不動産屋にはわかってる。
カサリンがクワガタに目配せすると、即座に、もうすぐ水面に浅紅色の姿を映すであろう一本桜に向かって大声を発するのだった。
「お値段は、桜守りのお仕事付きで…、480万円ど〜す!」
さてさて、みな様なら――買いますか?
作品名:ツイスミ不動産 物件 X 作家名:鮎風 遊