ツイスミ不動産 物件 X
ウェルカムの挨拶後、婦人が「このジゴロとの生涯、まったくのクソだったわ。だけどね、言ってくれたの、人生も残り僅か、ここらでお前と終の棲家に着地したいと。だから探して欲しいの」と紺王子に熱く訴えてきた。
一方苦み走ったダンナはその通りだよと眼前で人差し指を縦に二度振るだけ。
う〜ん、まことにキザな爺ちゃん、クワガタにとって超苦手なタイプだ。あ〜あと溜息が出そう。
そんな瞬間に上司からの尖った視線を感じる。
そう言えば、カサリン姉御、朝礼で檄を飛ばしてたなあ、「まずは客の懐に飛び込め」と黄色い声で。
紺王子、名前はまことにプリンスだが、実態はしがないサラリーマン。ここは服従で、「男の決意、ご立派ですね」とまずは心の扉にノック。あとは馴れ馴れしく「ご趣味は?」と爺ちゃんのハートにジャンプ・イン、…したつもりだった。
だがオヤジは沈黙を継続。
こんな場を見かねたのか、ご婦人が一言代弁する。「インスタグラムよ」と。
昔気質の爺ちゃんが、インスタ!
驚きで紺王子は後退りする。
こんな部下の動揺に課長は辛抱できず、「お若いご趣味で、素晴らしいですわ」といきなり割り込んでくる。
実に鬱陶しい。
そこで部下が「課長のインスタは自己満の茶色い弁当ばっかり、それでもいいね付けろと命令、これってパワハラですよね」と愚痴を零す。
すると上司から「こいつのインスタって、虫ばっかりの自己中。ほんと芯からクワガタなんですよ」と痛烈な反撃がある。
こんなやり取りに寡黙な爺ちゃんが微かに笑ったような、笑わなかったような。
いずれにしても紺王子は少しホッとした気分となり、「インスタのテーマは何ですか?」と訊いてみる。すると横の婦人がうんと頷き、男の代わりに一言返してくれた。
「花鳥風月よ」と。
作品名:ツイスミ不動産 物件 X 作家名:鮎風 遊