ツイスミ不動産 物件 X
されど一風変わってる。
そそり立つ岩山にいくつもの穴が開いてるのだ。
管理人によると、それらが玄関だと仰る。
「住民のみな様はどういう暮らしをされているのですか?」
やはり棲家の最終決定者は女性。
管理人はそれをよく理解しているのか、背筋を伸ばし説明する。
「山で猪を狩り、川では岩魚を釣り、キノコを採り、炭焼きをして…、皆さん自給自足の自然暮らし。そして楽しみは洞窟の地底温泉で、老体をほっこりまったりと癒やす日々です」
これを聞き、白鬚紳士がもじもじと。
クワガタは直ぐさま察し、高らかに発表する。「お値段は2000万円です」と。
うんと頷く紳士、決心が付いたようだ。
だが婦人は「ここにはまったく悲劇がないのですよね」と顔を曇らせる。
この表情から感じ取った百戦錬磨の笠鳥課長がボソボソと。
「その通りですね、終電に乗り遅れた、歩きスマホで電柱に当たった、コンビニでおでんをこぼした、などの愛すべき小さな悲劇も……、ありませんわ」
さ〜て、みな様なら、絶対安心/絶対安全のトカゲ山核シェルターマンション、2000万円でお買い上げされますか?
作品名:ツイスミ不動産 物件 X 作家名:鮎風 遊