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遅くない、スタートライン 第4章

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第4章(5)

美裕さんは俺の看病に1泊し、その夜遅くに自宅に帰り、また朝の解熱剤の薬を飲む時間にマンションにきてくれた。2日目の朝から、胃に優しいおかゆやなうどんなど作ってくれた。うどんは鍋焼きうどんだ…関西だしに俺の好きなしいたけ、かまぼこ、卵にみつばを盛り付けてくれたんだ。あの人ホント料理上手だよ!さすが調理師免許だな。パティシエさんでもあるけど…

3日目の朝には平熱に戻り、美裕さんにラインをした。「熱下がった」と…すぐに美裕さんがラインを返してくれた。
「3日目でも今日は1日ベッドで安静にしましょう。治り際が肝心ですからね。後で美裕お手製のプリンをお持ちします」と!

やった…今日も美裕さんに逢える。俺はラインの画面を見て右手でガッツポーズをとった。

「ホント…すみませんでした。独身の男のところに3日連続で通わせてしまって」
俺はプリンの容器をテーブルに置いて、美裕さんに頭を下げた。

「イエイエ…お気になさらないでください。体調の悪い時相身互いと言います。MASATO先生…言ってくれましたよね。俺達はプライベートはダチだから、タメ口聞いていいよって。遠慮しないで…おしゃべりもそうですけど、身体的にもいいんじゃないですか?ダチさんが体調悪ければ、できることをするって」
美裕さんは俺にお代わりのプリンを手に乗せてくれた。

「はい…でも男と女だしいいのかなぁって思っちゃいました。お姉さんに怒られませんでした?ダチでも異性のダチの看病って」
「まぁ…最初はビックリしてましたけど。私も30歳すぎのいい大人だし、自己判断にまかせてくれたんじゃないですかね?さっきもプリンを渡しに行ったら、MASATO先生のお加減はどう?って普通に話してましたし」
「それなら、よかった」俺は美裕さんがお姉さんに怒られたと思っていたので、ちょっと安心した。

美裕さんは俺に薄めのアメリカンを入れてくれた。ドリップの最中も美裕さんの手に見惚れていた。
「サマになってますね!パティシエさん時代もコーヒーとか入れてたんですか?」
「ありがとうございます。イエ…パティシエ時代はもっぱら製作オンリーで、やはりカフェスクールに行ったら違います。初回に愛先生のドリップを見て感動しましたよ。最初から最後まで綺麗で、家に帰って何度も練習しました。愛先生のドリップ姿を思い出して」ちょっと赤くなりながら笑った美裕さんだ。

俺は無意識に左手を伸ばし、美裕さんの右手を自分の手と重ねた。美裕さんは俺のアクションにちょっとカタまっているようだ。
「美裕さん…ボディは小柄で足のサイズも小さいけど。手も小さいけど、指すんごく長くない?俺はただデカイだけの手だけど」
「……はい。あぁ…私は小さい頃にピアノを習ってましてそのせいかもしれませんよ。ドからミまで届くし」
「ピアノやってたん?ドからミまでってすごくない?あ、じゃ指の関節なんか柔らかいわけ?」
俺は指の関節をネタに、美裕さんの指の関節を軽く握った。そして…美裕さんの指と俺の指を合わせて、「指つなぎ」をした。何気なく、美裕さんの顔をみたら、耳まで赤かった。

「あ、ごめん。ツイ調子こいた…美裕さんにお断りもしないで」俺はそう言いながらも、美裕さんの指をから自分の指を離そうとしなかった。いや、離したくなかった。美裕さん…イヤなら離すよな?俺は美裕さんが指を離さない事を心の中で祈った。

「……イエ。最初驚いたけど、MASATO先生の手は大きいですね。長身だし靴のサイズも大きいし、指だって…」
美裕さんの左手が俺の右手に重なり、俺にこう言った。
「物書きの手ですよね。この指でかもめ本の文章を書くんですね。想像しました…MASATO先生ってどんな手をしてるんだろ?私は職業柄…手を酷使しますから、物書きの手もそうかな?とか…書いてるときはどんなアクションしながら、書いてるんだろうかと、想像したら止まらなかった」
また赤くなって笑う美裕さん…俺はそんな美裕さんの顔を見ていると、自分でも予期しない言葉を口にしていた。

「美裕さん…俺の思い上がりかな?その…看病にきて泊まってくれてまで、俺に付き添ってくれたの、美裕さんはさっきはプライベートのダチさんなら、体調が悪ければできることはするって言ったよね?俺の看病はやはり…プライベートのダチだから、それとも少なからず…俺の事を思ってくれてるから看病してくれたの?」俺…いきなり…美裕さんにコクってる?

美裕さんは…少しうつむき加減で俺の言葉を聞いてたけど、ゆっくり顔を上げた。その顔が…少しはにかんで赤くてかわいかった。俺はそのはにかんだ顔にキュンっと胸が鳴った。俺の耳には俺の胸からそんな音が聞こえたんだ。

「最初は愛先生に頼まれたものを渡して、お加減の様子見て帰るつもりだったの。私にはあこがれのかもめ本のMASATO先生…勇気と歩き出すきっかけを与えてくれたMASATO先生…具合が悪いのに無理して玄関に出てきたでしょ?」
「あ、あれは…愛先生が俺にラインくれたんだ。愛先生には見抜かれてて…具合が良くなる特効薬あげるよ。今渡したから30分で着くって書いてあって。俺…スマホにタイマーかけて、リビングのソファで寝てたんだ」
「特効薬って…」また美裕さんが赤くなった。
「俺の特効薬…美裕さんさ。俺…おしゃれなセッティングもしなくてごめん。その…公園でお弁当美味しそうに食べてる美裕さん見てから、すごくいい感じがして、教室で美裕さん見つけた時は…嬉しかった。学校長と副校長からカフェスクールにも通ってるって聞いてから、ごめん。美裕さんに逢いたくて、美裕さんのスィーツも食べたくて、押しかけていたんだ」

美裕さん…下向いてクスクス笑いだした。
「ごめん…俺ホントあつかましいわ」
「イエ…MASATO先生ってかわいい。毎回のように来るMASATO先生…私の作ったスィーツを美味しそうに食べてるし、課題の質問をネタにカフェスクールに居座り続けたり、でも…嬉しかった。MASATO先生の美味しそうな顔を見たら、今度はあのスィーツを作ってみようとか、材料アレンジしてみようとか、パティシエになりたてのココロを思い出させてもらったわ。そのスィーツ達をの事を考えてる時は、必ずMASATO先生の顔を思い出してるんです。それって、好きだからですよね?MASATO先生のこと…」美裕さんは握ってる指に力を入れて、俺の手を握り返してくれた。

「あ、ありがとう。美裕さん…ホントはここで美裕さんの唇にキスしたいけど。俺まだ風邪ひいてるから今日は我慢します。風邪治ったらデートしてください。俺…美裕さんの彼氏になってええ?美裕さん…シングルだよね?そうかなと思ってたけど、なかなか聞けなかったけど」

美裕さんは、俺の目を見て少し笑った。