HAPPY BLUE SKY 婚約時代B版 (投稿し忘れ)
新・HAPPY BLUE SKY (結婚式編など)
(4)
俺は陸軍専用機で2ヶ月ぶりにN国・ファイン支部に帰国した。防衛大の教授・プロジェクトチームと世界8ヶ国の防衛省と防衛大の視察・研究・討論会に参加した。また俺は諜報業務ではない仕事に最初の内は戸惑ったが、この機会を与えてくれた教授・ファイン支部の上層部・部長達に感謝した。それだけ俺にとっては、この海外公務が自分にプラスになったことを実感していたからだ。この海外公務が終われば、来年の4月まで防衛大でさらに専門分野の講義を受けることになっている。この4月までは、俺は防衛大に一時転属になった。
報告を受けてから出国するまでは、慌ただしい日々が続いた。出発まで1週間しかなく、準備だけでも大変だった。諜報業界の仕事なら、身一つで出国も入国もしたもんだが。また今度の海外公務準備も一美には随分と手伝ってもらった。業務的な事ではないが、忙しい俺の代わりに出国準備をしてくれた。1ヶ国目のA国に入国し、ホテルの部屋でトランクを開いた時に、俺は驚いた。衣類や常備薬に愛用のキッドや好物のドライフードなどが入っていた。またミラド先生にオーダーしたのか、乾燥を防ぐ軟膏クリームなどが専用ポーチに入っていた。一美が用意してくれたアイテムで、俺は随分と助かったものだ。同行したスタッフにもアイテムをやった。スタッフもとても喜んでいたしな。
俺は大佐室で帰国の報告をしてから、中佐室に戻った。トランクをデスクの横に置くと、アーノルド少佐が自らコーヒーを運んできた。また後ろに、ベン主任達もついてきた。ま、よかろう。2ヶ月ぶりに第1TOPの顔を見るから。
「海外公務お疲れ様でした。クゥ中佐」
アーノルド少佐達は俺に敬礼をした。
「はいはい‥長期の不在の間、留守番ご苦労様でした。で、何だね?第1TOPが揃いも揃ってご入室とは?」
「フィアンセ様にはもうお逢いになったんですか?」
「メールしたんですか?」
「電話したんですか?」
「今日のご帰国もちろん、ご存じですよね?」
「‥‥知ってるよ。決まった時点で報告したよ。あぁ!おまえら‥また何か企んでるのか?」
俺は手をワナらせた。俺のその姿を見て4人はニタッと笑ったのだ。また、廊下で一美の叫び声が聴こえた。
「俺達って優しいでしょう。少しでも早く逢いたいでしょうから、中村先生にご許可頂いて元先輩部下達がフィアンセをお迎えに行きました!おぉーい!ヨルぅ・ツィンダー連れて来いよ」ドアに向かって、アーノルド少佐は叫んだ。
「おい‥中佐の様子がヘンだぞ」
「ホントだ。あぁ‥これか」
アーノルド少佐が私を指差して、満足そうに笑った。そしてミラド先生が笑いながら言った。
「2ヶ月の間に、一美ちゃんはブライダルエステ・メイクレッスン・着こなし上手になっちゃったからさ。驚いてカタまってるんだ。フィアンセのクゥさん。な‥一美ちゃん!正気に戻してやれよ。まだ業務残ってるんだって!一美ちゃんの声でさ甘くささやいてやってくれよ。今日のディナーはクゥの好きな物ばっかりだよんって」
その声に他の先輩達は口を開けて笑った。
「せ、先生ッ!先輩方!」私は顔を赤くしながら怒った。
先生・先輩のご好意でドアは閉められた。きっとドアの外で聞き耳を立ててるに違いない!アーノルド少佐は‥でも正気に戻させないと、帰国当日で残業はかわいそうだ。今日のディナーはさっきクゥのマンションに行って、圧力鍋に仕込んできたのに。デザートも冷凍庫に冷やしてきたし、シャンパンだって準備したからね。仕方ない‥例のアクションで正気に戻ってもらおう。私はクゥ中佐にそっと近づいた。
一美は少し顔が赤ったが、軽く自分の頬を手で叩きドアに向かった。ドアを開ける前に振り返って、俺に小さく手を振って【バイバイ】した。俺と一美が声を発すれば、ドアの外で聞き耳を立てているヤローどもが喜ぶからな。俺の開発した暗号文字を指で書いて、俺も一美に手を振った。
廊下は静かになったみたいだな。部屋から出た一美をカラかったら、今度は俺の怒声が廊下に響くと思ったんだろう。アーノルド少佐達は早々に部室に引き上げたみたいだ。
2ヶ月ぶりに見た一美の姿に、俺は完全フリーズしてしまったようだ。それもミラド・部下の前で。以前にもフリーズしたが完全ではなかった。今回は誰から見てもわかるぐらいフリーズしていたようだ。それでフィアンセである一美に、俺を元に戻せとアーノルド少佐達は言ったそうだ。
一美は俺の腕をつかんで、少し背伸びをして俺の耳元でささやいた。何てささやいたのかは、内緒だ。まだ勤務中だからな!
私は先輩達がオフィスに迎えに来た時には怒ってしまったが、オフィスに帰る時は、先輩達のご好意に感謝した。飛行機の時間は直前までわからなかった。出勤前にメールチェックをしたけど、クゥからはメールが受信されていなかったから。
私はオフィスに戻って、すぐにアタッシュケースとトートバックを持って営業に出た。今から予定の営業先を回れば、少しでも早く仕事が終わると思ったから。歩きながらシステム手帳で回る営業先を確認した。またルートも考えて、どの営業先から回れば効率よく仕事が終わるか検討した。その時だった!左横から、私を呼ぶ声が聴こえた。左横はカフェテラスのオープン席だった。その声の主は‥クゥ中佐だった。機内食の軽食を食べずに飛行機を離陸したのだろう。おなかが減ったんだね。
「一美さん!今から営業か?」
「はい!5件回ってきますぅ。中佐ランチですか?」
「うん。君はもう済んだの?」
私は首を左右に振った。クゥ中佐は私に手で【おいで】をしてプレートの中のバケットを手渡した。
「それ腹の足しにして、営業頑張って下さい」
「ありがとうございます。あ‥ちょっと待ってください」
私はアタッシュケースの中を探り、システム帳を台にしてボールペンでメッセージを書いて、クゥ中佐の手に渡した。
「どうもごちそうさまでした」
クゥ中佐に頭を下げて通用門に向かって歩き出した。
一美が行ってから、手の中のメモを見た。大好きなディズニーキャラのカードメモだった。そのメモにはこう書かれていた。
「頑張って仕事カタします。おなか空かして帰って来てください。コタロウと一緒に待ってます」と‥
俺は一美の気持ちが嬉しくて、そのメモの文字を指でなぞった。うん‥俺も早く仕事をカタしてマンションに帰ろう。今は勤務中だからな。大っぴらに一美とハグはできない。マンションに帰ったら、一美とコタロウと2ヶ月ぶりの再会を実感しよう。俺はプレートを持って椅子から立ち上がった。
作品名:HAPPY BLUE SKY 婚約時代B版 (投稿し忘れ) 作家名:楓 美風