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HAPPY BLUE SKY 婚約時代 6

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私は目の前の光景に驚き過ぎて、言葉が発せなかった。目も見開いたままだったらしい。横の中村先生と理事長先生が私の軍服の袖を何度も引っ張ったらしいが、それでも現実の世界に中々戻って来れなかった。私が現実の世界に戻って来れなかったその訳は‥‥
高名な将校達が続々とホールに入って来た。私はホールの入り口を見ていた。私が座っている席からはホールの入り口が良く見えた。さっきはさとにあんな事を言ったが、やはりクゥ中佐の制帽制服姿が見たいのだ。部署順からいけば、もうホールの入り口に姿が見えてもいいのに、諜報1班の先輩達の姿は見えなかった。先輩達の先頭を歩いているクゥ中佐も確認できなかった。
「あれぇ‥今年は違うのかな?」
私は進行表が貼ってある掲示板に目を移した。
「去年は通信部の後だったよな?一美さん」
私の後ろの席にいるのは、ミラド軍医だ。珍しく朝礼にご出席である。毎年【やってらんねぇ!ただでさえ激務なのによ!】と言ってサボタージュ決め込んでる先生のなのに。
「そうでしたよね。あ‥広報部のトニー君だ!聞いてみようか」
私の斜め前に座ってる、ダチのトニー君の肩を叩こうとした時だった。ミラド先生が私の軍服を引っ張った。【前を見ろ】とステージのセンターを指差した。その将校がステージに出てきたと同時に、ホールからどよめきの声が聞こえた。私はステージを見た‥その将校はなんと‥クゥだった。
「お‥おい!一美さん。何も聞いてないのか?クゥ中佐から」
横のミラド先生は私の腕を叩いたが、私は無反応だった。
「ミラド先生!ダメだわ‥一美さん驚き過ぎて」
「頭の中も真っ白で、思考能力ストップだ。ふたごの弟君、姉ちゃん正気に戻せ!」私の横に座っていたさとはうなづいた。
理事長先生が私の手にメモを握らせた。
「諜報1班の元先輩達からだ。」
ミラド先生が私の手からメモを取りあげて、先に読んだ。
「代理総合司会者‥って」
「‥‥らしいぞ。あ、始まるぞ。一美さん、しっかり見てやれよ。クゥ中佐‥晴れ舞台だぞ。おまえ知ってるだろうが!総合司会者した将校は上層部入りする人間が多いって!ほら‥目線合わせてやれ。アイツ!諜報エリアは肝っ玉据わってるけど、他の事は小心者クゥちゃんなんだ。フィアンセの一美ちゃんの顔を見たら、勇気100万倍さ」
横の中村先生達は口を押えて笑っていた。
一美じゃないけど、口から心臓が飛び出しそうだ。緊張のあまり胃が痛くなってきた俺だ。ステージの裾でマイクを軍服の襟につけようとしたが、指先がかじかんでるのか、震えているのか上手くできなかった。横から、諜報2班のダフリン中佐がマイクをつけてくれた。
「緊張するよな!イキナリ‥でもよかったじゃないか。君だって知ってるでしょう。総合司会者の意味!あぁ‥ミラド軍医がこっち向いてるぜ。アイツ何やってんだ?自分のほっぺた指で突っついてる。あ‥そうか」
ダフリン中佐の声に俺は、整列している隊員の列に目を向けた。センターから少しレフト側に【剣流会オフィス】の席があった。その中に1人だけグリーンの制服制帽の一美がいた。ミラドに腕を叩かれて、制帽を少し上にあげて、俺に向かって自分の頬を指で軽く押して、次の瞬間‥一美スマイルをしてくれた。その一美スマイルに横のダフリン中佐が「おぉ」と喜んだ。
俺は一美スマイルを見て、軽く頭を上下させた。2回深呼吸して、センターに向かって歩き出した。息を軽く吸って‥
「全員ッ!整列!長官に向かって最敬礼ッ!」
俺の声に全隊員と将校達は長官に向かって最敬礼をした。
上層部の席には、ボンバード顧問もいた。息子の総合司会者ぶりを嬉しそうに見ていたそうだ。(表面はキリリッとしていたが、時折目尻が下がっていたそうだ。中村先生が上層部の方に後で聞いた話だが)
朝礼もそろそろ終盤になった。進行表の項目を目で確認しながら、俺は舞台裾のスタッフにうなづいた。進行表を手にしたスタッフが俺に近づいてきた。手渡されたのは修正分の進行表だった。(そんなの聞いてないぞ)
「つ‥追加進行?」
修正された進行表を見た俺は、思わず上層部のお偉方が座ってる席を見た。俺が上層部の席を見ると、信じられない事に上層部のお偉方が軽くうなづいた。(ま‥マジかよ?) 一介の陸軍中佐にこんな事があるとは普段は絶対ありえない話だ。誰が仕組んだ?親父か?イヤ‥そんな事をするキャラじゃないぞ?俺が戸惑っているのが見えたのか、サブ総合司会者のダフリン中佐がまた俺の軍服の袖を軽く引っ張った。
上官からの命令は絶対服従のこの世界だ。やるしかないか‥‥俺は軽く息を吐いて追加進行表通りに朝礼を進める事にした。
ミラド軍医に付き添われ、私は舞台裾に来ていた。中村先生も理事長先生も直前になって言う事ないじゃない!私はこんなのキライなのに。それもミラド軍医もグルで、3人に説得されほぼ無理矢理ステージに上がらされたのだ。舞台裾には諜報1班のゲイル先輩がいて、私の軍服のチェックをしてくれた。
「うん!これでOKよ。いいじゃないのぉ‥こんなこと滅多にないわよぉ。総合司会者のクゥ中佐と剣流会オフィス代表で、ファイン支部全隊員を従てのセレモニーだよ。今はフィアンセじゃないでしょ!立野一美下士官」
私はゲイル先輩の言葉に素直にうなづいていた。そうだ‥今は剣流会オフィス・立野一美下士官だった。深呼吸して、ステージ右端の総合司会者席のクゥ中佐を見た。あ‥何か口パクしてる。私にはその口パクが何を言っているのかわかった。そして私はステージに向かって歩き出した。
クゥ中佐の低くよく通る声でアナウンスが始まった。
「最後に長官への最敬礼をしますが、今年は剣流会オフィスの発起年と言う事もありまして、剣流会オフィススタッフと陸軍病院スタッフも入って最後のセレモニーを行い、朝礼を終わりたいと思います。では、剣流会オフィス・立野一美 下士官・陸軍病院 外科医長 ミラド・ウィリアムズ先生よろしくお願いします」
そのアナウンスの声で、ホール内にどよめきの声が上がった。私とミラド軍医はステージ中央に立った。また私は初めて見た!ミラド軍医の軍服姿を‥それに今まで髪もボサボサで無精ひげだったのが、今日は髪もカットして、髭もシェービングしていた。もっと驚いたのが、トレードマークの黒縁眼鏡が顔になかった。どうやらコンタクトレンズを入れてるらしい。そういや、ミラド軍医は朝礼の途中で消えたな?その時に変身したか。
「俺に惚れるなよ。フィアンセのクゥちゃんよりいい男だからって」
小声で私に言った。まぁ、ミラド軍医も私の緊張解してくれたみたいだが。
ここで言い返したいところだが、後でクゥに言いつける事にした私だ。
クゥ中佐とダフリン中佐と並び、私とミラド軍医が両者のサイドについた。
クゥ中佐は私の顔を見て軽くうなづいた。
「全隊員!長官に向かって最敬礼ッ!」
クゥ中佐の低くよく通る声がホールに響き、ファイン支部の全隊員が長官に向かって最敬礼をした。ホール全体の空気が一斉に締まった。そして、ホール内に拍手が響き渡った。