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てっしゅう
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「空蝉の恋」 第三話

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「そうですか。妻も望んでいるようなのでそうさせて頂きます。予約はまだですよね?」

「いや、してあるよ。断らないように先に予約を入れておいたんだ。もし断ったら罰金としてキャンセル代を払えと言ったよ、ハハハ~」

「何と言うことを・・・社長には逆らえませんね」

「イヤミな言い方だなあ。私はそれほどワンマンではないぞ。君の優秀な頭脳を買っているんだ。そうだろう?」

「ありがたいことです。今の自分は社長あっての内田だと思っています」

「まあ、かしこまらずに今夜は楽しもう」

夜の十時ごろまで会食をして、案内されるままに部屋に入った。そこは大きなベッドが置いてあるダブルルームだった。
窓からの景色は宝石を散りばめたような美しさだった。
少し酔いも手伝ってムードが高まってきた。

「ねえ、あなた。とってもきれいよ」

「ああ、そうだな。こんなところに泊まるなんて久しぶりな気がする」

「そうね。こんな大きなベッドも初めてですわ」

「何だかプレッシャーがかかるな・・・」

「ええ?どういうことですか」

「お前が期待しているんじゃないかって思うからだよ」

「そんな・・・」

夫はこれまでのことで私が不満に感じているだろうことを知っていたのだろうか。
そんなことは気付かれないようにしていたのに、ちょっと驚かされた。
シャワーを浴びて先にベッドに入った夫の姿を見て、期待しながら丁寧に体を洗った。

少し長くバスタイムを使ったので、申し訳ないと感じながらバスタオルだけ巻いてベッドに行った。

「あなたごめんなさい待たせて・・・あなた?」

自分の中のトキメキのようなものがスーッと消えてなくなった。
春樹は、夫は、既に熟睡していたのだ。

社長がせっかくこんな部屋を用意してくれたことは、私たちに仲良くしなさい、と言いたかったに違いないと感じていたことだったのに、夫はそうは思わなかったのだろう。
それほどお酒に強くないからワイン一杯ぐらいしか飲んでいなかったので、酔いつぶれたというわけではなかった。

1人窓際に立って、先ほどよりは少なくなっている明かりのそれぞれの部屋には、同じような思いをしている妻たちがいるんだろうなあ~とぼんやりと考えていた。
悲しいというより、もう我慢することなんかない、という気持ちに変わってゆく自分がいた。

翌朝夫は謝ることはしなかった。私も詰め寄ることはしなかった。
それが夫婦だし、それも夫婦だし、そうなってはいけないのも夫婦だ。
社長夫婦にご挨拶を済ませて、夫にこの足で名古屋へ戻ると伝えた。
不機嫌そうな表情を見せたが、私の気持ちは変わらなかった。