HAPPY BLUE SKY 中編
「普通‥一言あってもいいじゃないですか。一言もなく殴られたんです。玄関に防犯用の木刀があるんですけど、それで‥‥」
ミラドがカッジュのシャツの袖をめくった。シャツの下には所々に内出血があった。俺もその内出血を見た。またミラドはカッジュの足も見て言った。
「これは暴力だ!親父さんは躾の一環でした行為かもしれんがな。カッジュ‥おまえは無抵抗だったのか?」俺もそう思った。
「顔の一発ならまだしも、これは行き過ぎだ。カッジュ!おまえ何で抵抗しなかったんだ?いつものおまえなら‥あぁ身内はダメか」
カッジュはミラドと俺の問いにただうなづくばかりだった。そしてこう言った‥
「小さい頃から‥あの人の前に立たされると身がすくむんです。体が強張っちゃって‥また口も利けなくなっちゃう。でも‥」
カッジュの瞳からまた潤み始めた。ミラドはガーゼでカッジュの目を押えてやった。カッジュはガーゼで目を押えながら俺達に言った。
「小さい頃からずっとガマンばかりしてた。何も言えなかった‥言う前によく叩かれたから、それがトラウマになってただ黙ってるだけだった私だから。今回はハッキリと言ったんです。もう日本には二度と帰らないって、だからお別れに来ましたって。そう言ったら、また殴ろうとしたから、リュックを掴んで玄関から飛び出してそのまま‥空港行きのバスに乗りました。後ろで声を張り上げてましたね‥【おまえ勘当だ!二度とこの家の敷居をまたぐ事は許さん】って。ま‥私はそれでスッキリしましたけど」
その夜、俺はカッジュを軍の独身寮まで送って行った。まだ頬も口の中も痛そうなカッジュだったが、寮の前で俺に頭を下げて言った。
「ボスぅ‥ありがとうございました。ボスが提案して下さった事で、カッジュは心がスッキリしました。23年間‥父親の前では何も言えなかった私でしたけど。これから一生懸命頑張りますので、よろしくご指導下さい」
「おまえ‥それでいいのか?勘当されたんだぞ‥二度と家に戻れないんだぞ」
カッジュは頭を上げて、俺の目を見て言った。
「いいんです‥カッジュはこの国で生きるって決めたんです。ボスやTOP様と先輩達と一緒に仕事がしたいんです。もう日本には未練なんてありませんから」
カッジュはそう言って、少しだけ笑った。
それから数日後に、カッジュは初登庁して部の正式隊員になった。カッジュは言葉の通り、何事も一生懸命で、また知識を蓄える為に俺とTOPと部の先輩達に質問をした。また俺も時間のある時に、カッジュに【特別講義】としてデスク横にチェアー持ってこさせて、テキストを片手に知識を叩き込んだ。そしてカッジュの頑張りが実を結んだ。入隊1年目にして階級スキップし、あらゆるライセンスを取得した。入隊2年目には同期の中で、上等兵に昇格した。それもN国全支部の中で1番乗りで昇格したものだから、部長・中佐は大喜びだった。俺達も嬉しかったが‥
また‥こんな事もあった。訓練校時代はパワーセーブをしていたカッジュだ。隊員になってからはパワーセーブせずに【捕り物】をする。またその【捕り物】のパワーレベルが噂になって、軍の上層部がカッジュの資格ライセンスに目をつけた。またカッジュが保持しているライセンスのグレードが高いものだった。俺は日本の武道はよくわからないが、部下に日本の武道に詳しいのがいた。その部下から聞いて俺とTOPは驚いてしまった。
上層部はカッジュのライセンスも注目したが、これからの若い隊員の励みにもなるから、ライセンスを生かして活躍してはどうかと部長に申し入れてきた。部長1人では決めかねる事だったので、中佐・少佐とアーノルド主任が同席して話を聞き、そしてカッジュに伝えた。カッジュは日本ではそのライセンスのおかげで、一杯嫌な思いをしてきたからな。俺とアーノルド主任はカッジュの答えは【NO】だと思ったのだが。
「私‥頑張ります。お話だと‥‥」
カッジュは上層部からのファイルに書かれている個所を指差して言った。カッジュが指をさした所には【練習・試合等のスケジュールは当人の意思を一番に重んじる】とこう書かれていた。カッジュは日本では決められた練習・試合をただ消化するのみで、自分の意思は何も通じなかったから。こんな形式でできるのなら、チャレンジしたいと俺とアーノルド主任に言った。それからカッジュは【エージェント】と【選手】の兼業になった。
作品名:HAPPY BLUE SKY 中編 作家名:楓 美風