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月に誘われて

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 どれぐらいの時間が流れただろうか。僕も月に魅入られて、天体望遠鏡を覗きこんでから時間(とき)を忘れた。また横の彼女も僕と同じだった。

 撮影に一区切りついて、僕は天体望遠鏡のレンズから目を離した。また彼女も天体望遠鏡から目を離した。僕達は、ほぼ同じタイミングでレンズから目を離したようだ。そして初めてお互いの顔を見た‥

 普段の僕なら見知らぬ女性と話すことはほぼ皆無だ。話すのは職場の女性と言っても50歳のパートのオバちゃん・母ぐらいだ。元々‥口数が少なく女性に対してはそれ以上にほぼ無口になる。話しかけれたら‥
「はい」とか「エッと」とか「そうかな」の3言葉しか出ないのだ。情けないことに‥でもその日は違った。月が勇気をくれたようだ‥

 僕が口を開きかけた時だった。彼女はサイドの髪を指で軽くかき上げて僕に向かって笑ってくれた。
「こんばんわ‥今日はいい月ですね。月に誘われてフラッと出てきちゃいました」
僕はその笑顔に‥少し顔が赤くなった。自分でもそれがわかった。普段の僕ならそこで口がカタまってしまうところだったが。また月は僕に勇気をくれたようだ。

「はい‥僕も同じです。家で見るより外の方が綺麗かなと思って来ちゃいました。お気に入りの場所で」彼女はまた笑いながら‥
「あぁ‥ごめんなさい。ここもしかしてアナタ専用場所だったの?」
「そんなことないよ。僕の土地じゃないし‥誰でも入って良いんだよ」
「そうよね‥ここ市管理の公園の中だもん。じゃ‥また見ようかな。月」
「どうぞどうぞ‥僕もまた見たくなったから」

 二人でまた天体望遠鏡を覗いた。
 今度は、彼女とおしゃべりをしながら月を見た。いつもは1人で黙って「天体観測」だが、今夜の天体観測は今までの中で一番楽しかったかもしれない。彼女とのおしゃべりが楽しいのか、僕はいつもの10倍ぐらいしゃべっていた。またそんな自分に驚いている僕だった。

 天体観測中に互いの自己紹介をして。天体観測歴をしゃべった。またその他の事も彼女に聞かれるまましゃべった僕だった。
彼女との話しがまた楽しく、時計を見たら日付が変わる直前だった。

「あ‥もうこんな時間だ。帰らなきゃ‥」
僕の言葉に彼女もうなづき、天体望遠鏡を片付け始めた。

 公園を出る時に‥僕は今度は月の力を借りずに勇気を出してみた。
「今日はとても楽しかった。もしよかったらまた一緒にしない?天体観測」
初めて女性を誘った僕だった。

 それから半月が過ぎた。また僕は月に誘われて「あの場所」へ行った。
僕の想いが届いたのか‥それとも同じ想いだったのか。

「あの場所」に行くと彼女が来ていた。僕は彼女に笑顔を向けて手を振った。
「花菜子!」花菜子も僕の顔を見て笑顔で僕を呼んだ。
「健介!」と手を振ってくれた。

 僕は初めて逢った日に花菜子に別れ際に「天体観測」を誘ってOKの返事をもらったのだ。そして数回‥天体観測をして花菜子と交際した。この僕が花菜子に交際を申し込んだのだ。また月に勇気をもらって‥

 月に誘われ‥月に勇気をもらって月に味方をしてもらって、花菜子という女性と彼女ができた。僕は月に言いたい。「ありがとう」と‥    完



作品名:月に誘われて 作家名:楓 美風