目覚めると…
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今度はもう我慢ができなかった。私はクリニックのスタッフ専用ドアを泣きながら出て行った。後ろで私を呼びとめる声が聴こえたが振り返らずに走り去ってしまった。
受付カウンターから呼ぶ声に答えて歩き出した時だった。視界が白くなり意識が遠のいた‥気がついたらソファに寝かされていた。院長先生がちょうど外出から帰って来ていて、私を診て下さったそうだ。
「どうしたんだね?大島チーフ‥」
院長先生のメガネの奥の瞳は優しかった。私の目は潤んでしまった‥その瞳がとても優しくて。
その時だった。院長先生の後ろから上司の声が聴こえた。
「夜遊びも程々にしないとね!大島チーフ」
と笑いながら言ったのだ。また事務長も一緒になって笑ったのだ‥
私は左手で震える右手を押さえながら、反論しようとした。口を開きかけた時だった‥
「そこの二人‥今はそんな冗談を言っても良い時かね?外出する前にスタッフの勤怠状況を見せてもらったが。事務長・XXXさん院長室に来て説明してくれるかな?どうして大島だけ連日で深夜残業してるのか‥XXXさん個人攻撃はいい加減にしなさい。君の態度は目に余る!私が何も知らないとでも思っているのか?」
普段、温厚で物静かな院長先生の声に事務長・上司は驚いていた。またオフィスにいたスタッフも驚いていた。
院長先生はわかってくれてたんだ‥私は思わず片目を押さえてしまった。
「大島‥君もいけないよ。何故私に言わないんだ‥何もかも自分で処理するんじゃないよ」
「はい‥も‥申し訳ありません」頭を下げた私だった。
「うん‥事務長・XXXさん!ただちに大島の仕事調整しなさい。院長命令だよ」
事務長と上司は「はい」と言って頭を下げた。
院長先生がオフィスから出て行ったすぐの事だった。
上司が私の前に来て‥そばにあったミネラルウォーターの入った紙コップを手に取って。
「ホント!アンタって男に色目使うの上手ね!院長のお気に入り大島だから‥院長に泣きつけば何とかしてくれるって思ったんでしょう。ズルイ女ね!あぁ‥さっきの貧血ワザとでしょう。院長が外出から帰って来るの見計らって倒れたんだ。そういうの見よがしって!言うの!私‥アンタみたいな女大っきらい!自分がちょっと口角上げて笑えば男はみんなオチるとでも思ってるのよね。」
そして、紙コップの水を私の顔に吹っかけた。頭からビショビショになった私はそのまま‥オフィスを飛び出してしまった。社会人としてはしてはイケナイけど。もう我慢ができなかった‥