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哀しい夕暮れ

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別れ


 秋の夕暮れはとてもキレイだけど。
私は泣きだしてしまいたいくらい哀しくなるのだ。
どうして‥こんなに哀しくなるのだろう。

 私が秋の夕暮れにこんな想いを抱くのは‥母のせいだ。
母は‥私が7歳の時に家を出た。母が家を出た原因は「姑」だ。私にとっては祖母でもある‥
また父は、母をかばう事もせず祖母の言いなりだった。

7歳の誕生日を迎えて翌日だったと思う。母が家族の夕飯の支度を終えて私を台所に呼んだ。
「麻奈ちゃん‥お母さんと夕暮れ見に行かない?そこの公園に」
「うん。いいよ」当時7歳の私は無邪気にうなづいた。
 
 母は私の手をつなぎ‥片手には大きい旅行用かばんを持っていた。7歳の私は母のカバンを見て。
「お母さん‥それはなに?」
「うん。お母さんの大事なモノが一杯入っているの」としか言わなかった。
 
公園のベンチで母と夕暮れを見ていた。
私はその日学校であった事を母に話した。母は私の話をうなづきながら聴いてくれた。
「麻奈ちゃん‥ごめんね。お母さんもう‥」母は手の甲で目を押さえた。
「お母さん‥どうしたの?おなかがいたいの?」
7歳の私は母が泣いているのは‥どこかイタイ所があるから泣いていると思った。

 母は私を片手で抱きしめて言った。
「ごめんね‥本当にごめんね。お父さんとおばあちゃん達の言う事聞いて‥良い子に育ってね」
「お母さんはどこか行くの?」
「うん。もう逢えないの‥だから」後は涙声で母の言葉はよく聴こえなかった。

 母は夕暮れの中歩き出した。私が泣きながら呼んでも‥振り返らずに公園を出て行った。泣きじゃくっている私を父が腕に抱き上げた。父も泣いていた‥7歳の私は父が泣いているのを初めて見た。
「おとうさんが悪いんだ‥麻奈ごめんな」と私の頭を抱きしめた父だが‥その腕が震えていた。

 それから15年後に祖父母は相次いで他界した。父は祖父母の勧めもあって14年前に再婚した。母が出て行って半年後に新しい母親が家にやってきたが。その母も祖父母と折り合いが悪く3年で離婚した。父はそれからずっと独りでいる。

その母も私を可愛がってくれた。最初は戸惑った私だが少しずつ仲良くなり‥すぐではないけれど。
「お母さん」と呼んで彼女を慕っていた。でも彼女も産みの母と同じ「夕暮れ」時に家を出て行ってしまった。そろばん塾から帰って来た私は、泣きながら後を追ったが‥追いつけなかった。夕暮れの中を泣きじゃくりながら家に帰りついた私だった。

 だから夕暮れは嫌いなんだ。私‥哀しい想い出が多すぎるから。
だから夕暮れ終わり‥夜の帳(とばり)が降りるまでは外に出ないようにしてたのに。今日に限って、オフィスが改装工事の為にスタッフ全員が17時退社になってしまったのだ。みんなが帰るなら‥私だけ残るワケにも行かない。そのおかげでまた見たくない「夕暮れ」を見る羽目になった私だった。

 でも、そんな哀しい夕暮れが嬉しい夕暮れに変わったのだ。
それは1本の電話がきっかけだった。在宅していた私が電話に出た‥
「はい‥市野瀬でございます」
受話機から嗚咽が聴こえ‥次にかすれた声が聴こえた。
「麻奈ちゃん‥」
その声は7歳の時に家を出て行った母の声だった。17年経った今でもハッキリ母の声を記憶していた。

 それからすぐに父が帰って来て、母と電話で話をした。
受話機を置いた父は‥私の顔を見て言った。
「お母さん‥ずっと独りだったそうだ。麻奈に逢いたいと言っている。逢うか」 
作品名:哀しい夕暮れ 作家名:楓 美風