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ダブルな顔

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<3>
 信じられない‥今日面接に行って。明日から出勤って!私の希望していた職種じゃないのに‥

 担当者に連れて行かれた派遣先は、都内でも有名なスポーツクラブだった。引き籠りの私だって知っている。ここがどれだけ有名なスポーツクラブなのか。また著名人や芸能人がメンバーズに登録していることも知っている。普通なら喜ぶことだろうが。今の私には素直に喜べない。人と接するのは極力避けたいのに、でもそう言ってられない。私も働かなければいけないのだ。

 幸い‥母は看護師の資格を持っていて市民病院の外来に勤務が決まった。これからは母娘で働いて暮らしていかなければいけない。母が帰って来て仕事の話をすると喜んでくれた。
「担当者さんの言う事も一理あるわよ。さくらはまだ若いんだから何事も挑戦してみることよ。頑張って」
「でも不安なんだ‥スポーツクラブの受付業務でしょ。あまり人と接触したくないのに」
「何言ってるの‥どんな仕事でも誰かしらと口を利かなきゃいけないのよ。さくらはね‥最初に勤めた所がひどかったのよ。あの会社での事を思えばね」
「そうだね‥」

 翌日からスポーツクラブに出勤した。朝9時半始まりの18時半の勤務で午前1回・ランチ休憩・午後1回の休憩があった。私はランチ休憩以外は休憩はナイと思っていたから嬉しかった。派遣会社の担当者さんと4Fのゼネラルマネージャー室にご挨拶に行った。ゼネラルマネージャーは立野さんと言う女性の方だった。ビックリした‥女性とは思わなかった。私は女性スタッフが苦手だった。自分も同姓なのに‥古参のパート勤務の女性に事あるごとくイジめられて、またその周りの女性スタッフは誰も助けてくれなかった‥だから私はあまり女性スタッフに対して良い印象を持っていなくて‥怖かった。

 立野ゼネラルマネージャーは私にこう言った。
「ゼネラルマネージャーが女性でビックリしたんでしょう。」それも笑顔で言った。
「そ‥そんなことありません」ドモりながらしゃべった私だ。
「顔に書いてますよ。榎本さん‥最初に言っておくわね」話し出した‥立野ゼネラルマネージャーだった。

 ゼネラルマネージャー室を出てから、派遣会社の担当さんは私の肩を叩いた。
「気さくな人じゃないか。ゼネラルマネージャーの役職ついてるから‥もっと怖い人かと思ったけど。榎本さん‥立野ゼネラルマネージャーが言ったことさ。よぉく考えて、自分なりに行動しなさいよ。言ってる事は当たり前の事だから」
「はい‥頑張ります」私は軽く頭を下げた。
 そして、私はチュープレス・スポーツクラブのフ派遣社員となった。
作品名:ダブルな顔 作家名:楓 美風