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私だって…

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階段を降りる足音が聞えた。
まだいたのか。口ばかり生意気になって、ちょっと注意をすれば、私の顔をチラッと見てまた携帯電話をイジりだす娘!
「萌!」
私が怒ると、今度はクスクス笑ってこう言う。
「眉間にシワ寄ってるよ!ママぁ‥朝から何怒ってるの?うっざぁ」
と言われるのだ。また私の姿をチラッと見てこう言う。
「ワタシぃ‥ママみたいにならないわ。朝から怒って眉間にシワ寄せて、スッピンでいつも同じ服を着て。女子はいつもキレイでなくっちゃ!」
 娘の萌は、通学カバンの中からハンドミラーを出して、リップクリームを唇に塗り前髪やサイドの髪をのチェックをしてリビングから出て行った。テーブルの上には、萌のランチボックスが残っていた。
「お弁当忘れてるわ」
萌のランチボックスを持って追っかけるが、萌の口から出た言葉はこうだ。
「要らない!ママが作るお弁当飽きた。カフェテリアの方が美味しいモン」
萌は髪をいじりながら、玄関を出て行った。

私はランチボックスを持ったまま立ち尽くした。確かにカフェテリアのランチは色どり綺麗で美味しいかもしれない。栄養バランスだっていいかもしれないけど。
「ママだって、萌の身体のコト考えて作ってるのに」
娘にそんなコトを言われてショックだった。また階段を降りる足音がした。今度は夫の健吾だ。口を開けばこう言う。
「忙しいんだよ。専業主婦はいいよな!三色昼寝付きでさ」とか
「休みの日まで、大変だよ。俺らサラリーマンは!」

玄関で立ち尽くしている私を見て、夫の健吾は言った。
「何やってんだよ。そんな所で立っていたら靴履けないだろ」
「あ、ごめんなさい。今日は晩ご飯は?何時に帰って来る?ねぇ‥パパ!一度萌に言ってくれない?私の言う事全然利かなくて」
「何でだ?萌の教育はおまえの仕事だろ。俺忙しいんだ!それに毎日同じコト聞くなよ。朝出る時に止めてくれないか?その眉間にシワ寄せるの!もう40なんだ。すっぴんは見苦しいぞ。やっぱオンナはいつも身ぎれいにしとかないとな」
また健吾も早々と玄関のドアを閉めて出て行った。
「私って何なの?アナタ達のお手伝いさんじゃないわよ!眉間にシワだって誰がそうさせているの!それに化粧する時間なんかないわよ!」絶叫してしまった。
そして私は、玄関マットの上で両手で顔を覆ってしまった。
作品名:私だって… 作家名:楓 美風