私だって…
コンクールの絵の搬入から1ヶ月が経った。
私は海藤オーナーと雅樹先生に付き添われてXXX文化ホールに居た。緊張で足が震えているのが自分でもわかる。そんな私を見てお二人は笑いながら言った。
「加奈子さん!大きく深呼吸しましょう」
「加奈ちゃん‥顔引きつっている!スマイルスマイル」
私の頬を軽く指で押した雅樹先生だった。
賞を受賞してから、私の元に次々と仕事依頼の話が舞い込んできた。雅樹先生も喜んでくれた。また海藤オーナーのお誘いを受けて「Massa」専属画家として契約した。担当していたクラスもそのまま受け持つ事になったので、超多忙になった私だが心も身体も満ち足りていた。萌もそんな私を見て「ママに負けない」と言って獣医大とさくらぎアニマルクリニックで「動物看護士見習い」もして。私に負けない程多忙だった。でも、似た者母娘だろうか。忙しくなるほどプライベートな時間も上手に取っている。
萌に彼氏ができたのだ。付属高校時代は萌は彼氏はいなかった。萌にとって初彼ができたのだ。萌の初彼はさくらぎアニマルクリニックで同じ動物看護士見習いの獣医学部学生だった。2歳年上で萌は勉強の方もクリニックの仕事もよく教えてもらっている。今日も家に来て二人で「動物看護士」エリアの勉強をしている。私はバックを持って、部屋をノックした。
「開けていいよ」
萌の声が聞えたのでドアを開けた。
「うん!いいよ。ご飯はお昼に作ったカレーでいいよ。後冷蔵庫の中のモノ適当に食べるよ。ママ!ゆっくりしおいでよ。勉強終わったら私達もデートに行くから!そら太連れてドッグラン行くんだ」と嬉しそうな顔をした萌だった。
「はいはい!行ってきますね。アナタ達も楽しんでらっしゃい!じゃ」
ドアに手をかけた時に萌は笑いながら言った。
「彼氏の雅君によろしく。バツイチ同士楽しくデートしておいでよ。ママ!付き合い始めが肝心なのよ。ビシッと躾けなきゃ‥ね!翔ちゃん」
「ですよ!おかげで躾けられちゃった俺です。雅樹先生にもご同情申し上げます」
彼氏コト翔ちゃんは笑いながら言った。
私は翔ちゃんにニッコリ笑って言ってやった。
「そうよ!女舐めてると痛い目にあうわよ。うちの萌も私も手厳しいんだからね!雅樹先生とタッグ組めば?私は萌とタッグ組んでいつでも受けて立つわよ」
「こ‥怖い!さすが萌ママだ。すんません」頭を下げた。
「そうよ!女舐めたら怖いんだからね。ママ!もう迎えに来てるんじゃないの?彼氏の雅君!今頃車の中でボヤいてるわよ。加奈子!また萌ちゃんと一戦交えてるのかって。早く行きなさいよ」と言って私に「バイバイ」する萌だった。
マンションのエントランスには、車がパーキングされていた。エントランスから出て来た私を見て、軽くクラックションが鳴った。
「ったく‥また萌ちゃんと小競り合いしてたんか?何でアンタら母娘はいつも‥イエ」
口ごもった雅樹先生こと彼氏の雅君だった。私は何にも言ってないのに!
「すんません。加奈子さん」と頭を下げた。
「私何も言ってないけど?無言のアピールしたっけ」
「そ‥ソレが怖いんや!優しい顔して手厳しいわ。口は立つわ‥さりげなく俺に体罰与えるわで。離婚して性格まで変わったん?加奈子」ボヤいた雅君だった。
「うん!変わったよ‥私だってね!変わる時は変わるんだから!でも!変えるきっかけを作ってくれたのは雅樹先生だよ。感謝してます!ありがとうございます。だからもうボヤかないで!行きましょう」
「はいはい‥行きましょう。バツイチ同士の5回目のデートに」
笑いながら、サイドブレーキ―を下した雅君だった。
今、私は前に向かって歩いている。仕事も充実して、彼氏もできた。私だって‥こんなに変われたんだ。違う世界に踏み出すことは勇気の要ることだけど!
みんな!頑張ってね! (完)