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俺はキス魔のキッシンジャーですが、何か?【第一章・第一話】

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こちらは都内の郊外にある狭い通学路。比較的早い時間帯なので、急いでいる生徒はほとんど見られない。


 高校1年生の宇佐鬼大悟。金色縁の四角い眼鏡をキラリと光らせ、首には胡桃のような色、形のペンダントを付けている。


 宇佐鬼家はいつも兄妹一緒に登校しており、赤いブレザー姿の妹・桃羅は満月のような愛嬌のある桃色の瞳。ピンク色の髪は背中までまっすぐに伸びている。名前の通り、桃色の頬が実にみずみずしい。さらに特筆すべきは胸の壮大なボリュームである。風がなくてもタップンタップンと揺れている。均整のとれた美しい形であることは制服の上からでも容易に見て取れる。


 桃羅はさかんに大悟と腕を組もうとするが、大悟が拒絶して、相撲の立会の張り手応酬を形成している。


「もう秋も深まっているのに、背中だけは夏のように熱いなあ。」


 大悟がかいた背中の後方。5メートル離れてもうひとり女子がいる。黄金色に輝く髪純白のリボンでツインにしている、ちょっと不機嫌そうな表情の少女。やや鋭角な公孫樹色の目、確実にAカップ以下の胸を標準装備している剣徒楡浬(けんと ゆり)。楡浬は般若面でも被ったような表情で、強烈な視線を大悟の背後にぶつけている。


 さらにもうひとり。隣家に住む桃羅の同級生で幼なじみ、織田しのぶも登校仲間である。髪が肩にかからない長さのしのぶは、胸に顕微鏡と双眼鏡をぶら下げて、天体望遠鏡を背負っている。彼女は、一見仲睦じい?兄妹の後ろをついているが、ふたりに遠慮でもしているのか、楡浬と同じく5メートル位離れている。これでは一緒に登校しているという感じではない。


 桃羅は楡浬を冷たく一瞥した後、愛くるしい目で大悟を見つめて、スカートの裾を軽くつまんだ。


「お兄ちゃん、モモの朝一パンツだよ!ちら!超新鮮だよ。」


「ばかやってんじゃねえ。どこの世界に妹のパンツを見たいって兄がいるんだ!」


「でもアニメじゃフツーにあるよ。」


「そんなのはエロゲーくらいだろ。現実にないからこそゲームになる。そんな兄妹は存在しないのがリアル世界だ。桃羅よ。人生のキャッチボールは、現実のスタジアムでやらないと引きこもりという敗北者になってしまうぞ。」


「引きこもりは必ずしも負け組じゃないよ。負けたところから勝利への道が開けることもあるんだよ。」


「それはたしかにそうかもしれないが。」


「だから、モモのパンツ見て、『初夜の鐘』を鳴らそうよ。」


「バカやろう!朝っぱらから何言ってるんだ。」


「じゃあ、夜ならいいんだね。あはん。萌えるよ。」


「ちげーだろ!」


 そんなふたりのやり取りを見ていた顕微鏡・双眼鏡・天体望遠鏡少女しのぶ。眇めた眼をさらに冷たく細くした。


「ねえ、桃ちゃん。その会話って、ただの仲のよいバカ兄妹にしかみえないけど。」


「ありがとうしのぶ。だからしのぶは親友なんだよ。てへッ。」


「別にほめてないし。」


「しのぶもお兄ちゃんにパンツ見せる?」


「えっ、ムリムリ、ゼッタイムリ!わたしのパ、パンツなんて、大悟兄さんには目の毒だよ!ねえ、大悟兄さん!」


「う、うむ。しのぶは冗談を言えない性格だからな。」


「くだらないわ。」


 眉根を寄せながら三人の会話を聞いていた楡浬が、大きめな声を出した。すると、イケメンのサッカー部エースストライカーに告白して『ごめんな』を食らった女子中学生の淡過ぎる夢のように、会話が突然途切れた。


 四人はいつもの登校ルートを10分ほど歩いて、今は学校の正門前である。門には黍尊(しょそん)高等学校とある。ここは去年までは、黍尊女子高校であったが、今は共学となり、校名を変更したのだが、まだ十分に定着しておらず、従前通り『キビジョ』と呼ばれている。男子生徒もほとんど入学していないのが現状である。
学校が近づくにつれて、声をかけてくる女子もいる。


「おはよう。宇佐鬼くん。」


「桃羅ノイズ発動!」


「キャー!」
 近づいてきた女子はどこかへ飛ばされてしまった。


「またノイズか。いい加減にしなよ、桃羅。」


「ダメだよ、お兄ちゃん。女子はみんなオオカミなんだよ。お兄ちゃんを狙っているんだからね。モモが常に桃羅ノイズという魔法の盾で、お兄ちゃんを守るんだよ。」


「はあ。朝からたいへんだよ。」


 嘆息する大悟は5メートル後ろを歩く楡浬に視線を送ろうとしたがやめた。
大悟と楡浬は今年16歳になった高校一年生であるが、桃羅としのぶは大悟よりも1歳年下である。それでも四人は同級生である。しのぶと桃羅は飛び級入試でこのキビジョに入学したのであった。


「それじゃあ、お兄ちゃん。あたしはここで。」


「おう、じゃあな。」


 大悟と楡浬・しのぶはいつものように、教室に入っていったが、桃羅は違う校舎に向かって行った。


 大悟は、窓側の二列目いちばん後ろの席にポジションを取った。その席は最も教師の視界から死角になるという劣等生にとっては垂涎の的である。でもそれは、大悟本人にはどうでもいいことであった。廊下側の隅には楡浬が座り、場所的に日光が当たるはずもないのに、なぜか顔は朝焼け状態であった。


 不思議なことに、大悟の周りの席はすべて空席である。大悟から半径5メートルに位置する座席は誰も座っていないので、このクラスは生徒数が通常の半分位しかいないように見える。


『カッ、カッ、カッ。』


 妙齢の女子であることを証明するハイヒールの音。女教師がチャイム音と共に大悟たちのいる一年生の教室に入ってきた。ホームルームの時間である。


 濃いピンクのスーツに、同色の眼鏡。それに合わせたような桃色の髪を束ねて、右肩に乗せている。特筆すべきはスカートの短さ。膝上40センチで、少しでも足を開くとパンツが見えてしまいそうな、絶対領域剥き出し状態である。
 教卓に着いて、出席簿タブレット画面を覗く女教師。


「それでは出席を取ります。1番から5番までの出席番号の生徒は来てるので、省略。仮に来てなくても省略。では大本命6番の宇佐鬼君。来てますね?」


 ミニスカ教師は教壇に立つと、目からビームのような視線を最後尾席の大悟に送ったうえで、大きく足を開いた。


「はい。」
 ゾンザイな態度で返事をする大悟。いかにも面倒くさそうである。


「宇佐鬼君。今日こそ、先生と勝負する?」


「別にいいです。これまでも闘っていないでしょう。」


「そんな遠慮することないのに。うふ~ん。」


 女性教師は艶めかしく腰を振った。その運動の結果、タイトなスカートがさらに上方に遷移し、もはやパンツとの限界点に差しかかっている。


「先生。教師という立場を超えます。やめて下さい!」


 大悟は目線を合わせないように、額を机に押し付けて、ゴリゴリやっている。


「先生のレアポーズに、直球で感じてるんだね。見ないと生涯後悔するよ。うふ~ん。」


「先生。それは逆セクハラです。校則にはありませんが、超校則違反です。それにそのポーズ、毎日見ていますから、レアではなくレギュラーです。」