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俺はキス魔のキッシンジャーですが、何か?【序章】

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ある時、人間界には『吉備桃太郎』というカリスマ戦略家が吉備団子という滋養強壮に優れた食べ物を発明し、格闘力が大幅に向上した。ここで地獄の支配に対して人間界のレジスタンスが始まった。人間たちは吉備桃太郎を『征獄大将軍』に任じて、戦闘を優位に展開し、ついに閻魔大王を屈服させることに成功した。それは桃太郎伝説として人間界に残され、地獄側は人間からの侵略と捉えていた。


 人間は鬼たちへの降伏条件として、魂のみの地獄へ送ることと、戦闘行為の放棄を掲げて受容された。戦いを止めた鬼の角は退化して、現在ではウサミミとなっている。吉備団子を恐れるウサミミたちは吉備団子に近い饅頭までも怖がるようになり、饅頭を見ると『饅頭コワイ!』というのが条件反射となる体質になってしまった。


そんな地獄に突如出現した怪物。『ガリガリガリガリ』と硬い物を噛み砕くような耳障りな音を鳴らしながら、奇妙な形の物体が少女の前に現われた。直径4メートルの大きな楕円形から、上に四本、下に四本の手足が屈曲しながらだらりとしている。


「ま、饅頭人だわ!」


 平べったい頭部兼胴体の上に載っているカニの目玉らしきものが、触手のようにせわしく左右に動いている。少女は後ずさりながら、饅頭人のチャック型の口を見た。次の瞬間少女の視界は暗闇に閉ざされて二度と日の目を見ることはなかった。

 饅頭人はどうして地獄に発生したのか。


 地獄を制圧しかかった桃太郎たちの師団がそのまま屯田兵として駐留し、一部地域を開発、居住するようになった。屯田兵たちは饅頭ばかり食べて、滋養強壮をひたすら高めた結果、新たな進化を遂げて、別の人種に生まれ変わった。それが饅頭人である。

 
 饅頭人は退化し体力の低下したウサミミたちに乱暴したり、食べたりするなど乱暴狼藉の限りを尽くした。地獄側は反撃することもままならず、やむを得ず、饅頭人に治外法権の居住区を与えるという最恵国待遇を含んだ和平条約を饅頭人と締結して、自らの平穏を保つ決断をした。


 時の閻魔大統領は一条直哉だった。地獄側は饅頭人が居住区から出られないよう、秘密裏に大地の大規模工事を行い、地獄の地表温度を二十度上げた。饅頭は高温では腐り易く、効果は絶大であった。条約にないことを行ったと饅頭人は大いに反発したが、後の祭り。地獄の平和は保たれたが、領土喪失や大規模工事による財政悪化などで、一条政権はウサミミたちの信頼を失い支持率が大幅に低下した。それまで閻魔大統領職はそれまで一条家が世襲していたが、人気は失墜し、現在の剣徒家にとって代わられた。


 しかし、最近になり、地獄ではウサミミが饅頭人に襲撃される事件が起こってきた。饅頭人がどうして居住区を出ることができたのか?地獄政府の調査では、饅頭人が居住区の外(饅頭人は地獄巡りと呼んでいる)に出るのに、ウサミミには危険ドラッグである防腐剤(アンチエイジングドラッグ)を使ってるらしいことがわかってきた。饅頭人には防腐剤を開発、量産化する能力はなく、地獄の誰かが防腐剤を饅頭人に渡したのか、未だ不明のままである。


 地獄は国家公安委員会防腐剤使用の饅頭人を排除しようとしたが、如何せん戦闘力が劣るため、饅頭人を別次元に排除することを決断した。饅頭人の行き先は人間界である。かつて、人間に攻められた経験上、吉備団子を中心に饅頭を人間が食することをウサミミは知っており、人間ならなんとかしてくれるだろうとの思いであった。事前通知もなく、饅頭人が送還された人間界に混乱が生じていた。