「歴女先生教えて~パート2」 第四十二話
「先生、どうぞ」
「よろしくね。う~ん、薬指は長くないから良かった、ハハハ~」
「先生は素晴らしい手相です。文句をつけるところがないですね」
「あら、そうなの。点数稼ぎしているのかしら?」
「そんなことないですよ。恋愛運も金運も健康運も良好です。一番なのは人を惹きつける魅力があるという事です。容姿だけじゃなく内面でもそうなっています」
「偉い褒めようね~、でも嬉しいわ。自分は先生になったことが運命だと思えるのよ。夫との出会いも含めて、これからも素晴らしい人たちとの出会いが楽しみだわ」
美穂は生徒たちとの時間がこの上なく楽しいものだと感じている。
母親に子供の世話をお願いしているのも、自分の教師としての使命を優先させたいからだ。この先生徒たちが巣立って、結婚して、子供が出来ても、ずっと仲良くして行きたいと願っていた。
歴史の授業が始まる。
「今日は中世の時代で避けて通れない十字軍のことを話します。1095年、教皇ウルバヌス二世がフランスのクレルモンで東方遠征を宣言したの。領地が無く、食べる当てがない若者の増加は西ヨーロッパ全体の問題となっていた。前に話した温暖化で食料状況が良くなって、人口が増えたことも一因なの。ローマ教会の信者だった彼らは救われるべき迷える子羊たちという事になる。ウルバヌス二世は熱弁を奮うの。異教徒たちが占拠しているエルサレムを奪還せよ。そして虐げられている人々を解放せよ。そのためには武器を取り、東方へ進軍せよと。
さらに、聖戦に参加する者には贖宥状(しょくゆうじょう=無条件で死んだら天国に行けるという特権)を発行すると宣言した。十字軍と呼ばれる第一回の戦争はこうして始まるの」
「建前は虐げられている人々を救うためという正義だったのですね」
「そうね、西ヨーロッパの若者は踊られたというわけね。東方世界にはお金も、食べ物も豊富だし、きれいな女性もたくさん居るとね。一旗揚げて自分の居場所を作ろうと考えたと思うわ。何も知らないイスラム社会の人々にとっては、まさに寝耳に水の出来事だった。エルサレムは1099年に陥落し、財宝の略奪とイスラム教徒の虐殺を敢行したの。エルサレム王国を始めとして、いくつかの十字軍国家を建設した」
*十字軍は、この後1270年までの約170年間の間に、第七次(八次との説も)まで派遣されます。最初の第一次は勝利しましたが、後は第五回を除いてすべてと言ってよいほど負け戦でした。イスラム側は内紛を収集して統一され、国力を増したことが勝因でした。異教徒へは寛容だったイスラム世界もパレスチナ地区での十字軍の虐殺ぶりは許せなかったのです。2000年に、ローマ教皇ヨハネ・パウロ二世は初めて十字軍の過ちを認め、公式に謝罪しました。
嫉妬深い神を奉じるセム的一神教にとって、異教徒は絶対悪となりやすく、どんな残虐行為を行なっても、すべては赦されるという錯覚が生まれやすいのです。十字軍はその一つの典型であったと思います(出口治明著:全世界史より抜粋)
作品名:「歴女先生教えて~パート2」 第四十二話 作家名:てっしゅう