遅くない、スタートライン 第2章
第2章(4)
私は手に汗を握りながら、MASATO先生の前に行った。MASATO先生の顔を見るのが怖かった。きっと、怒られるんだ。
「文章になってない!なんだ?これは」って怒られそう。
MASATO先生はブラウンカラーの入った眼鏡をかけていた。私が近くまで行くと、その眼鏡を指ですこし下した。
「ん…あぁ!お弁当の人だ。えぇ…ここの生徒さんだったの?」
MASATO先生の声で、まだ原稿用紙を書いている生徒が驚いて顔を上げた。
「お、お弁当?」私は何のことかわからず、出た言葉はこれだった。
MASATO先生は、眼鏡を取って私に笑いかけた。
「あ、あぁ!!公園の人ぉ!!イエ、失礼しました。MASATO先生」
私は思わず頭を下げた。
「イエイエ、俺こそすみません。女性に向かってお弁当の人とか言っちゃって」
またMASATO先生が、私に頭を下げたので、他の生徒の目線が私達に集中したのは言うまでもない。
MASATO先生は、頭をポリポリ書きながら私の書いた原稿用紙に目線を戻した。
「すみません…俺から脱線しちゃって。いや、この文章に書いてある事ホントですか?俺の文章がそんなにあなたに影響を及ぼしてるなんて。俺は思いつくままに文章を書くタイプなので」
「…はい。MASATO先生の文章で私は今ここの教室にいることができるんです。お恥ずかしいけど、それまで病人で寝たっきりでした」
私の答えにMASATO先生の目が一段と見開いた。
「そうなんだ…では俺の本はお役に立ったんだ。イエ…物書きとしては嬉しいお言葉です。ありがとうございます」
また、MASATO先生が私に頭を下げたので生徒の間から驚きの声が教室の中に響いた。
「イエ…私こそお礼を言います。ありがとうございました…かもめ本がどれほど以前の私に勇気をくれたことか、またMASATO先生の講義を受けれることで、私少しずつだけど元気になりました。おかげさまで毎日楽しいです」
「いや…照れるな。うん…俺の本がそんな風に役に立ってくれてるなんて嬉しいです。あ、この文章もサラッと書いてるようですが、読んでる俺の心に響きました」自分の胸を手で軽く叩いたMASATO先生だった。
私はMASATO先生の言葉を聞いて、もう自分の言葉を発せられなかった。
作品名:遅くない、スタートライン 第2章 作家名:楓 美風