晴天の傘 雨天の日傘
四 降るはずのない雨
快晴は外出する時はいつも傘を忍ばすようになった。これさえあれば雨に降られる心配がない。傘のお陰で仕事も順調に進むようになり、これまでのじめじめした性格というか僻みっぽさも晴れ、同僚先輩からも明るくなったと言われるが、その秘密は誰にも説明しないでいた。
「この傘はホント俺の勝負アイテムだな」
一人になった時は雨も降っていないのに快晴は時おりカバンから傘を取り出してはニンマリとして眺めていた。
「『雨をしのぐもの』という定義ではこの傘は傘として機能してるよな」
快晴はそう言いながら傘を大切にしまいこんだ。
仕事の合間の昼休み、外回りの途中の快晴は子供が騒いで走り回る公園に立ち寄り晴天の下でコンビニで買った弁当をつまみながら、もう片方の手で携帯電話をいじっていた。相手はもちろん彼女だ。来週は母校の試合が行われる、前回肩透かしを食った分を返さなくてはと躍起になっていた。
「来週の試合、見に行けるよね?」
「雨が降らなかったらね」
「じゃあ、ボクが天気を変えてみせよう(笑)」
次の日曜の天気予報は雨だ。しかし、快晴はそんな天気も変える奇跡のアイテムを手にしているのだ。
「ああ、太陽が照る日はなんて素晴らしいんだ!」
快晴は天に向けて両拳を大きく突き上げた。急に声を出すものだから周囲の人たちがビックリして快晴を見たが、そんなことも気にならなかった。
作品名:晴天の傘 雨天の日傘 作家名:八馬八朔