晴天の傘 雨天の日傘
間
静まり返った夜の街。隅々まで清掃が行き届いた小さな雑貨店の柱時計が暗がりの中でボーンと音を鳴らすと、カウンター下でうたた寝をしていたぶちの猫はゆっくり首を上げた。目を光らせて周囲に異常がないことをのそりと首を動かして確認すると、再び目を閉じた。
それからしばらくして、カウンターの上にある赤いダイアル式の電話のベルが鳴らし、安眠を妨害された猫は素早く身を翻して奥に入って行くと、変わりに店主が出てきて受話器を上げた。
「はい、三猿堂でございます」
「ほう、これはマスター、お久しぶりです」
「最近雨が続いて忙しいですと?まあ、
商売は繁盛するに越したことはありませんよ」
「はい?そうですねえ、さすがに天気を変える
ことはできませんが、アイデアはあります」
「一度お越しください。マスターに合う商品を
用意しておきましょう」
「それでは、また。ごきげんよう」
店主が受話器を置くとチンという小さな音が店の中で響いた。その音に反応してさっきまで身を逃れていた猫が戻って来て店主の脚の間を抜けると、カウンターの下で大きなあくびを一度してから丸くなった。
店主はカーテンを掛けた通り側の窓に目を遣った。辺りはまだ暗く、人も車も通っておらず街は一時の静けさを保っていたが、耳を澄ませてみるとポツポツと雨の降る音が聞こえてきた――。
* * *
この物語は後編へ続きます――
作品名:晴天の傘 雨天の日傘 作家名:八馬八朔