晴天の傘 雨天の日傘
結
街の真ん中の通り沿いにある、一通りの商品を扱っている雑貨店、名前は『三猿堂』。この街が街と呼ばれる前からあったそうだが、いつからあったのかは店主くらいしか知らないようだ。厄介なことに、どこにあるのかさえもどういうわけか店主にしか分からない。
ふとした偶然でたどり着く場所のようで、詳しいことはよくわかってない不思議な店が、この街にはあるようだ。
* * *
店主が店の前を掃き掃除していると、車道を隔てた向こうで、以前に来店した客が色白の彼女を連れて通りを歩いているのが目に入った。
「ほっほっほ……、そうですか」
店主は微笑みながら二人が通過して行くのを眺めていると、陽だまりでくつろいでいたぶちの猫が北風に顔を撫でられて、店主の脚の傍を通り抜け、店主が少しだけ開けていた三猿堂の引き戸を通り中へ逃げ込んだ。
「よかったですね。お客様にご満足いただけて、嬉しゅうございます――」
店主は人混みの向こうへ行く二人に向かってそう呟いて店の中に帰った。
「さあ、今日はどんなお客様がこられるでしょうか……」
そう言って次は店内の掃除を始めた――。
つづく
作品名:晴天の傘 雨天の日傘 作家名:八馬八朔