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晴天の傘 雨天の日傘

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 二人は下に見える傘のダンスを見て、流れるBGMに耳を傾けながら暫しの時間が流れた。そして、二人は視線を変えると同時に互いの顔を見たところで一瞬だけ時間が止まったような気がした。
「今日は、一人なの?」
 快晴は予定がポシャってここにいるが、そういえば彼女がこんな雨の日にしか開いていないような店に来ている理由が聞きたくなった。 
「いえ、一人じゃなかったんですけど――」実雨はカップに口を付けた「ゼミ友の彼氏が試合に出るから見に行こうと思ったんですけど、そのゼミ友が急に――」
「試合って、それ?」
 快晴は彼女がテーブルの上に置いているポーチに付いたストラップを見逃さなかった。大学のアメフトチームのそれだ。快晴がポーチを指を差しただけで言わんとすることが分かり、実雨も頷いた。
「先輩は行かないんですか?」
「ああ、知ってたんだ」
 それだけで彼女の言いたいことがわかった快晴は、思わずそう答えた。
 アメフトの試合は、スタジアムに入ると通常ロスターと呼ばれるその日の選手名簿が配られる。去年も見に行っていたら背番号12のところに快晴がいたことくらいは頭の片隅に残っていただろう。
「僕も天野さんとおんなじ、雨で予定が――」
 本当はそれが理由ではないけれど、快晴はその先のことは言わなかった。 

「そういえば、先輩も大学ではサッカーしなかったんですね」
「ああ、そうだね――」快晴はカップのコーヒーを飲み干した「インターハイで限界が見えたから、僕も高校でサッカーを諦めた。でも、雨男だけは直らないんだよな」
窓の外で人の波をすり抜けて走る黒い傘を指で追う。
「勝負の時は雨が降る、試合もデートも遠足も。チームじゃ『レインバッカー』って呼ばれたりしてね」 
 皮肉混じりに言うと、目の前の実雨は手を口に当てて笑った。
「それ、知ってます。去年のイヤーブック、見ましたから」
「そこまで見られてたんだね……」
 快晴は恥ずかしくなって照れ隠しに下を向いた。彼女は毎年チームが発行するイヤーブックに載せている自分のプロフィールに目を通したようだ。自分のポジションと雨男を掛けて「レインバッカー」と呼ばれていたのはここで自己紹介しなくても知ってるようだ。
「卒業しても、ビッグゲームで雨が降るのは変わらないようだ」
 快晴は笑いながらもう一度窓の外を見遣った。降るには降っているが、心なしか雨は少し弱くなっている気がした――。

作品名:晴天の傘 雨天の日傘 作家名:八馬八朔