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ミッちゃん・インポッシブル

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 そう言ったものの、実際、『お仕事は』と訊かれただけでも返答に困る……ドラッグストアのミッちゃんだと告白するわけにも行かないのだから……。
「いいんですよ、初対面の女性に色々と質問するのも失礼でしょう? 今日は楽しかったです、実は丸一日張り込んでいまして誰とも話していなかったんですよ、話相手になっていただいてありがとうございました」
 ……何と言う紳士的な態度……光子の胸は思わずキュン……。
「できればまたお会いしたいですね、お話していてとても楽しかったので」
「あ、それじゃ……」
 光子も一応名刺は持っているが、ドラッグストアの物を渡すわけにも行かない、手帳を取り出し、携帯番号を記入して破ろうとすると止められた。
「あ、いいんです、と言うか、初対面の中年男に気安く連絡先など教えるものではありませんよ、私の連絡先はその名刺に書いてありますので、当面は一方通行で……あなたが私を信用するに足る人物だと思ったら、その時に教えて下さい」
 紳士的なだけでなく奥ゆかしくて思慮深い……光子の胸はキュン・キュン……。


 翌日はなんとなく仕事が上の空……ミッちゃんの姿だとそれすら男性の気を惹いてしまうのだが……。
 本当は四方に電話を掛けたくて仕方がないのだが、迷惑じゃないのかな? とも思うし、昨日の別れ際の言葉は社交辞令だった可能性も……帰宅中も悩みながら歩いていたが、昨日のコンビニの前に差し掛かったとき、我慢できなくなって思い切って携帯を取り出した。

「もしもし、四方です……ああ、光子さんですか……ええ、良いですよ、でもこれから事務所を出るところなので三十分くらいはかかってしまいますが、それでよろしければ昨日のファミレスでいかがですか?」
 光子に異存があるはずもなかった、三十分? 三時間だって待てる……。


「こう言っては失礼に当るかも知れませんが、親近感を持てるのですよ」
 何度目かのファミレスデートの時、光子は思い切って自分の容姿についてどう思うか訊いてみた、その答えが『親近感』だった。
「全然構いません、だって私、エラが張ってますし……正直、自分の容姿には全然自信がないんです、むしろコンプレックスと言うか……」
「そんなことありませんよ、可愛らしいじゃないですか、色々なことに興味をお持ちだし、お話している時の目の輝きや屈託のない笑顔が素敵ですよ」

 キュン・キュン・ズッキュ~ン。

「いつもいつもファミレスでは変わり映えしませんね、光子さんの次のお休みは?」
(えっ? えっ? もしかしてデートに?)
 光子の胸はスーパーボールのように弾んだが、同時にいまだに自分の仕事すら話していないことが気になってしまう……。
「あさってですけど……」
「そうですか、私の休みは不定期なのですが、一人でやっている事務所ですから約束さえなければある程度自由になるんです、では、あさっての朝、九時にここで待ち合わせでは?」
「本当に?……でも、私、まだ自分の事は何も……」
「それはご自分で話しても良いと思われた時でいいですよ」
「あ、はい、あさって、九時にこの店ですね? 喜んで!」
「良かった」
 そう言ってニッコリされると、四角い顔も王子様のように見えてくる……。


(続く)

作品名:ミッちゃん・インポッシブル 作家名:ST