急行電車 9~7両
六両目に続くドアをスライドさせようと取っ手をつかむと、周りが少し暗くなった。その変化に思わず外を眺める。この明るさの変化は車内からくるものではないことは直感でわかり、その通り、電車はトンネルか何かに入ったようで、透明な窓は黒く染まっている。まだ青い空の余韻があるようで、純粋な黒ではなかった。
私の顔がガラスに映ると、その顔の醜さに思わず動きを止めた。顔のパーツはあまり醜くない。いつも通りの顔。だが、その表情は、形容するなら虫の物だった。虫の大群を嫌っているうちにその虫を好きにでもなったのだろうか。
意識しない好意が、意識する嫌悪を生み出した。私は七両目のドアを思いっきり開き、その大きな音をまた嫌った。虫たちの想像し世界の終わりに伴い発生した平穏な京王線は一瞬で姿を消した。
目を閉じる。