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文明とは

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今や、事件や犯罪0の社会では、個人情報も何もかも、全てオープンにされ、一昔前の、個人情報保護法とか、マイナンバー制度とかは、今では信じられない出来事であった。
出身地と本名を入力するだけで、あっという間に、プロフィールが、現れ、今現在の彼の地位を表していた。
何と、彼は現在、人工知能省の長官として、腕を振るい、活躍しているではないか、
もはや、大学の先輩後輩といった、取るに足らぬ、しがらみだけでは、到底、会う事の出来ない所にまで、上り詰めていたのかと、驚愕してしまった。
さらに驚かせたのは、世界中の国の、首脳クラスの人工知能との連携を深め、国際標準モデルを作り、争いの火種のひとつであった宗教、通貨、法律、言語、文化等をそれぞれ有機的に組み込んで、グローバルな国家間体制作りを目指そうとしていた事であった。
遥か以前にヨーロッパにありながら、各国の思惑と国益がぶつかり合って、崩壊してしまったEU経済圏構想を教訓とし、さらに知性を持ったスーパー人工知能を組み込むことによって、人間が生存する為に、進化の過程で獲得して来た、DNAの中にある、攻撃的な性質やあらゆる欲望などを排除した、全く新しい指導階層体制を目指そうとしていたのであった。
今では、あらゆる地域のテロは、撲滅され、世界中の指導者達が、心から実現を待ち侘びていた世界統一と言うテーマが、高度な技術の手を借りながらも、少しずつ、前進していたのである。
その時、太陽に巨大な黒点が無数に、出現しそれらが、ひとつの点に集まりだして、太陽の10パーセントほどの大きさに、なっていたのだ。
これほどのスケールになれば、市民にも、何かしら太陽に、異変が生じているらしいぐらいの事は、見てもわかるのだが、政府からの、正式な発表や見解は何もなく、無風状態で、早くから異常な黒点の出現に、驚きをもって観測し追跡を行っていた全世界の天文台も、沈黙を守っていたのであった。
もしも、この、巨大化した黒点の周囲で、凄まじい爆発があり、大規模な太陽フレアが発生すると、とても、地球の磁場圏だけでは、防ぐことができずに、その後に起こるであろう未曾有の災害が、予見されたのであるが、
これを防ぐ手段は、最新のAIでも、不可能とされ、
これを発表してしまえば、取り返しがつかない混乱に陥り、脅威が来る前に、人類は滅亡してしまう確率は、100パーセント以上と、はじき出されていた。
それよりも、自然の状態で、災害を受け入れ、破壊と荒廃の嵐がおさまり、絶望の淵から立ち上がって、文明の再構築を図ることが、最善であると、各国間の首脳と、AIによる助言が決め手になり、伏せられていたのである。
そこへ、1通のメールが届く。
人工知能省長官からの、ダイレクトのメールであった。
そこには、驚くべき内容のものが、記されていた。
近く、太陽の黒点付近で、想像を絶する、巨大なフレアが発生し、X線などの電磁波や電子や陽子など電気を帯びた素粒子群が、地球をめがけてやって来るというのである。
このメールの発信時間を見ると、午前10時30分となっていた、10数分前である。
表に出て、太陽を見ると普段とは全く違う色をしていた。
届く光も強烈で、何か、体を押されるような感じを覚えた。
これは、SFではない、現実に起こっているのだ。
やがて異変は一気に、地球を包み込んだ。
まず、高軌道を周回していた、GPS衛星がガンマ線などの直撃を受け、電子回路は一瞬にして破壊され、暴走し始めたのである。
近接する衛星同士、ぶつかり合い、大量のデブリが発生し
さらにそのデブリが、低軌道の衛星を襲うといった、悪循環に陥り、地上に凄まじい、影響を与え始めた。
無数に漂っていたドローンは、まるで蜂の大軍の様に、動く物を標的として、襲い始め、最高に安全な乗り物と言われていた車は、暴走し、制御が効かなくなっていた。
急な電力停止による世界各地の核融合炉はメルトダウンを起こし、
南海トラフ付近では、地震の活動が活発になり、
フライト中の飛行機は数千マイクロシーベルトもの放射線を浴びて、墜落しだした。
世界中の株式、債券、商品市場も、コンピューターが停止し、大混乱に陥った。
人間が作り上げた文明が、悲鳴を上げながら、一瞬にして崩壊し始めたのであった。
これは、まるで、旧約聖書の中に出てくる、ノアの方舟ではないか、
あれは、大洪水によって、地上の悪が洗い流された言い伝えであったが、今は、現実に人間が作り出した文明が磁場の嵐によって、洗い流されているのである。
僅かに残った人類たちは、再び立ち上がることが出来るのか、
いや、真っさらになった大地は、残っているではないか
ここに根を張り、耕し、紡ぎ、商い、機械に頼らない文明を築けば、数十年後、数百年後には、新たな文明が誕生している事だろう。
そして、再びこの様な脅威が、地球を襲っても、機械に頼らない文明は、持ちこたえ、若いカップル達が、世界中の上空でみられる、美しいオーロラの天体ショーに、魅了され、心を熱くして、ロマンチックに浸る事だろう。
                              完


作品名:文明とは 作家名:森 明彦