化粧して!
「…今日は、早いんだねぇ」
浩介君は、約束の時間の3分前に、駅のロビーに現れました。
「いつも遅刻してないし…3回に1回は私の方が早く来てると思うけど。」
自分の顔を凝視する浩介君に、薫さんが尋ねます。
「何?」
「えーと、化粧…」
「不本意だけど…約束だからね」
「やっぱり、してるんだよねぇ…」
「…は?」
声を荒げる薫さん。
浩介君は目を逸しました。
「えーとね…」
「…」
「薫の顔が…いつもと同じだなーと、思って」
「─ 唇の色だって、顔の色だって、いつもと違うでしょ?」
「それは、そうなんだけど…」
薫さんの見幕に、浩介君の声が小さくなります。
「もっと変わるものかと…思ってたんだ。。。」
「…もしかして、アニメなんかの『化粧で いきなり美人が誕生!』みたいなのを、期待していた、とか?」
頷く浩介君に、薫さんは脱力しました。
探る視線で、浩介君が尋ねます。
「怒ってる?」
「…呆れてる。」
目を閉じて、ベンチの背に体を預けた薫さん。
突然立ち上がって、オロオロしている浩介君と目を合わせます。
「化粧…落として来ても、良いよね?」
視線を逸らせない浩介君は、何度も頭を前後に振って見せました。
笑っていない笑顔で、薫さんが迫ります。
「─ 今後、私に化粧してって言うの 厳禁だからね? 僕ちゃん。」