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家族の季節

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 土曜日ということで、この前よりは店内には客がいた。
「茂樹さん、どういうことなの?」
 コーヒーを注文するのももどかしく葉子は尋ねた。
「お義母さん、先日は本当にご迷惑をおかけしました。そして僕の話を親身に聞いてくださって本当に有難く思っています。
 あの後の冷却期間がお義母さんの言う通り、とても貴重な時間になりました。
 あの時お話したように、もう別れる覚悟で、自分の思い、やり方を貫きました。今までのように千佳の顔色を見ることなく。すると千佳の方から折れてきたんです。それもまるで別人のような千佳になって帰ってきました。
 最初は、そのうちまた元に戻るだろうと様子を見ていましたが、そんなことはありませんでした。今の千佳となら、うまくやっていけると思います。勝手ですがこの前の話はなかったということで、僕たちふたりを温かく見守ってほしいのです。
 お騒がせして本当に申し訳ありませんでした」
 葉子はただ唖然とするしかなかった。
「お義母さん、いったい千佳をどうやってあんな風に変えたのですか? 何とおっしゃったんでしょうか? ぜひお聞きしたいのですが」
 ようやく我に返った葉子は答えた。
「千佳を変えたのは茂樹さん、あなたですよ。
 あなたの毅然とした態度、それをあの子は待っていたのだと思いますよ。自分では気がつかなかったみたいだけど。それにあなたに女性なんかいないことは確信していたと思いますよ。心から信じていたのだと思うわ。でも本当によかった……」

 しかし、今度のことで娘夫婦が近づいた分、肝心な時に家族の問題を相談できない夫に対する不信が露呈し、親である自分たち夫婦の距離が遠ざかったような気がした。考えていた記念旅行もすっかり色あせてしまった。

「そうだ、もう一つ大切なことが。大型連休にみんなで旅行に行きませんか? プランと費用は私たちに任せてください。お義父さんの還暦祝いと、お義母さんの誕生祝、ご結婚三十周年のお祝いにさせていただきます」
 葉子は茂樹と肩を並べて家に向かった。そして、これで来年もまた誕生日を祝ってもらえる、そう思うのだった。

作品名:家族の季節 作家名:鏡湖