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女の舞台、序破急

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恋人がいなくなると、むなしい気持ちになった。婚約してずるずると続いている。ずっと、待っている。今日も彼の不在が始まる。一緒にいてほしいのに、体も火照ったまま、いっそう寂しさが募ってくる。いるのに存在しない。不在を埋めたくなった。
男にメールして、夕方、会うことにした。あの男が進めた大胆な服を着ることにし、大きめの飾りを身に着け、手指も足指も、下着はもちろん、目いっぱい、変身した。
だから、夕方の男とのデートは、いつもと違って性欲の解消がテーマになっていた。今日一日の「序破急」である。
期待にたがわず、この男のものはなかなか良い。恋人のものは大きくて長く、満足している。しかし、この男のものの、硬さは並みはずれている。入り口だけで、感じることができたのは、屹立している芯のある硬さだった。硬い棒が体の中心を貫いている感覚ははじめてだった。

恋人にしなくてもよい言い訳をしているように、ひとりごとを言うように、女は今日の「序破急」を解説するように男に話し続けた。
男は思った。どうして、女はほとんどすべて、男性体験を話すのだろうか。女は心のストリップをするのだろうか。

ことばでセックスをするということも可能だろう。女は朝の彼との性交を省みてこの男との交情を解説した。
男は自信を深めている。今日のデートは、男根が役に立っているのは他者に認めさせることができる貴重な事件だ。女を頂点に導いた、もっと高い頂があるかもしれない。
男は指を二本、入れてみた。入れて動かした。
「あなたの指、気持ちいい」
女は指を歓迎した。
「あふれてきてる」
指を3本にして、動きを早めると
「いきそう、いく」
女性自身が再び収縮した。
「またいったんか」
「またいきました」
「ええ女やな、おまえの男に嫉妬する」
男は乱暴な言葉を使った。
「嫉妬するの、ええ女って、言われたことない」
「ええ女や、ほんまにええわ」
「あなたの指、やさしい」
男は指をほめられて戸惑った。
ほめられて、指を花芯にかぶせるようにして入れなおした。毛がないので、ぴったり張り合わされたようになる。
「指、入れといて、気持ちいい」
女が注文する、さて、指を代理人にして、男は奇妙な気分だった。

女の舞台、急

ふたりは横になりながら、余韻を楽しんだ。互いに当初はベジタリアンの気分だったが、今や、焼き肉を食べたい気分だった。
女には二度続けて、いく、ということは記憶にない。男とやりながら、女は気持ちが変化していくのが分かった。目いっぱいのおしゃれをして肉体の変身を成し遂げ、大成功だったが、肉体の反応を追いかけるように、心が他人を受け入れていく。これは自己合理化とも言えなくもない、女の場合、この男と恋人との関係を重層化する作業だった。しかしながら、体もうまくコントロールできず、心も御しきれないのかもしれない、すごく不安が生まれてくる。
「私ね、なかなかいかないの」
「いかないって」
「どうしてかはわかりません」
女はていねいな言葉を使って男に話して聞かせた。男はすぐに女が誰か別の男性と比較していることに気が付いていた。
剃毛もそうだが、今、付き合っている男がいるし、男性経験も、何人かあるはずだ。
「女性がいかないのは、男が悪いのやな」
女は肯く。
「何年、付き合ってる」
「もう5年かな、婚約してるんです」
「あれれ、それはないやろ」
男はこの女の行動を非難した。
「なんか、もう別れられそう」
女の独り言のような言葉を聞いて、男は自分に女がなじんできたのだと喜んだ。

持参したスキンを取り出してベッドに戻ると、女の前で装着した。
三度目の交情はベッドの端を使うことにした。
女が足を開く。男がその間に体をさしこもうとすれば、女は両手で花弁を広げて、進入を歓迎する。巧みな所作である。奥まで入れると動きだす。
「暴れてるって言ってみて」
「暴れてる」
その女の言葉に合わせて、男根の動きを荒々しくする。
攻撃的な性欲が湧き上がる。言葉が絡み合う、からみあって交情する。
「おとこ好きって言って」
「おとこ好き」
「もっと大きな声で」
「おとこ好き」
「もっと」
「おとこ好き」
女に絶叫させる。声を張り上げさせる。女のカタルシスだ。
「いく、いく、いく」
女性自身が二度、三度、収縮する。
ほぼ同時に男も射精する。

「よかったね、ちょっと休もうか」
体をぴったり重ねて、肌を楽しむ。
男は、三度もいかせたと、役割を果たすことができ、それがいちばんの満足だった。この満足は深い、満足こそセックスの目標なのだ。女もそうだろうと思った。女が野菜を食べたいといった理由もなんとなくわかる。どうやら、男性遍歴が豊富らしい、この女を満足させることができ、デ―トの最初の混乱が収拾されたのが、満足と言えば、得難い満足だった。

「こんなの初めて、また会ってね」
いかないから、もう彼の好きにさせてきた。努力放棄だ、その付けがまわってきた。3回もいってしまい、淫乱な女だと思われるだろう。いかない不満が積み重なったのだ。淫乱と思われてしまっただろう。それでも、この男はいい、「恋」に陥りそうだ。不在は肉体的には十分埋められたが、新たな恋をしそうになっていた。この気持ちをうまく説明できない。
男がベルトを締める音がする。別れる時が来たのだ。あらたな不在が始まるが、耐えねばならない。すぐに会うのは、はばかられる。二度目のデートはむつかしい。体を重ねるだけですまないような気がする。間合いが必要だ。会いたいけれど、ここは自制が欠かせない。女はまた、この男のやさしさに隠れている危なさも推し量った。捨てられるのはいや、捨てられるのなら、会わない、もう会わない。
今付き合っている彼氏と比べて、この男は断然いいと思ったが、彼氏の一途さも捨てがたい、彼の体は美しい、連れ歩くのによい。この男には荒ぶる精神と言うべきところがあるのがよいが、危うい。
満ち足りると、アクセサリーのように、相手をかえたくなる。この男もそうに違いない。
大学の授業を思い出した。第三者の評価は、共通の価値観を持つことにより形成されると。
この男と彼と。
この男の褒め言葉には、その言葉を受け入れることによって、支配的関係が生まれる危うさがある。今日初めて、言葉を自在に操ってセックスを楽しむ方法を身に着けたが、この男は言葉のもつ力にたけている。
お能に、序破急がある。今日の出来事は、まるで能舞台のような展開だった。舞台は最終、一挙に盛り上がって、幕が下りた。体を離した途端、急速に冷めていく自分を発見し、女は驚いた。男性経験も少しは重ねてきたが、セックスにも「序破急」があるのだろう。今日の男が「破」なら「急」がある、第三の男性との出会いを求めている自分を見出していた。
おけいこごとには、守離破がある。恋人は守なら、この男は離だろう、それなら、破があるはずだ。破は自立というではないか、第三の男に出会える期待があって、女は自立を求めて一歩、歩き出した。
作品名:女の舞台、序破急 作家名:広小路博