①銀の女王と金の太陽、星の空
そんな私をよそに、銀河はさらっと言うと、少し眉根を寄せて、憂いのある表情で私を見つめた。
「聖華が太陽との結婚を望むなら…力になろうと思う。」
想像もしなかったその言葉に、初めて気持ちが追い付く。
私は目を大きく見開いて、大きく息を吸い込んだ。
「私は、聖華に幸せになってほしい。だから」
「待って、銀河。」
私は銀河の言葉を再び遮ると、空を数秒見つめて、銀河に向き直った。
「私は、太陽に特別な感情を持っていないわ。…想う人は、別にいる…。」
私の言葉に、銀河は戸惑う。
「…え?」
私はこれ以上の追求を避けるため、話題を変えた。
「それで『力になる』って、どういうこと?」
銀河は私の告白にいまだ動揺しつつも、頷いた。
「あ、ああ。まだ誰にも話していない策なんだが、『国民投票』はどうかと思ったんだ。」
(国民投票…。)
「いや、私はてっきり聖華は太陽を望むだろうと思っていたから…。国民投票なら、太陽が選ばれるのは目に見えているだろう。」
(太陽は、あの太陽神のような美しさと強さで、国民から絶大な人気を誇っているものね。)
「だから、国民の総意とあらば王族たちも従わざるを得ないから良いのでは、と思って提案しにきたのだが…。」
どうしたものか…と銀河は小さく呟いた。
そんな銀河から、私は空へ視線を移した。
空は、何の感情も読み取れない黒水晶の瞳で、私を見つめていた。
私も、黙って彼を見つめ返す。
「聖華。」
銀河に呼ばれ、我に返る。
銀河に視線を戻すと、彼は少し迷うように瞳を揺らしながら私を見上げた。
「私は、嫡流を守ることは大事だと思う。それは、王を神格化するのに必要だからだ。
王=神としておけば、国民の心を容易くひとつにできる。心がひとつになれば、統治しやすくなる。
内政の安定には、必須だと思うんだ。だから、神格化するには、なるべく純粋な血筋を維持していくことが重要になる。そういうことから嫡流は大事と思う。」
そこまで一息で言うと、銀河は小さく深呼吸をした。
「だから…私は、てっきりあなたが太陽を愛しているんだろうと思っていたから、もうひとつ策を用意していたのだ。」
銀河はゆっくりと私から視線を外す。
「あなたに、『国のために意思を捨て、…私と結婚して、太陽は秘密の側室に』…と。」
銀河はうつむくと、両手を握りしめた。
「私はあなたを抱かないけれど、太陽との間に授かった子は、私の子とすれば良いだろう…そうしたら全て丸くおさまると…。」
そして自嘲気味に笑う。
「太陽との子どもなら、まぁ美しいだろうし、私にとっては実質甥になるから愛せると」
もう、それ以上は聞いていられなかった。
「銀河。もういい。」
私は言葉を遮ると、両手で顔を覆った。
銀河がどれだけ私を大事に思ってくれていたか、初めて知った。
これほどに、私のことを想い心配してくれていたなんて…。
自分の気持ちを一切押し付けず、ただただ私の幸せを第一に考えてくれていた…。
今まで銀河を誤解して嫌悪していたことが申し訳なくて、涙が溢れてきた。
「銀河、ありがとう。」
どんな言葉を選んでも、この謝罪の気持ちは表せないし、銀河の苦悩を和らげることはできない。
だからせめて、感謝の気持ちを伝えたかった。
「俺を雇ったのは、銀河王子と将軍だ。」
空が静かに言った。
「うん。そうだろうと思ってた。」
私は、銀河と空を交互に見ながら、そっと言った。
さきほど、ひとりで考えていたことは、間違っていなかったのだ。
そうなると、やはり真の暗殺犯は誰なのか…。
「私情は捨てて、よく考えな。」
低い艶やかな声がして、ハッと顔を上げた。
昨日と同じ内容の言葉を、空が呟く。
「空は、もうわかってるってこと?」
私と銀河が空を見ると、空はまっすぐに私を見つめた。
「確信はあるが、確証がまだない。
確証が得られたら、きちんと話す。」
そこで一呼吸おいて、空は銀河に視線を移す。
「罠を、仕掛けたいんだけど…。」
銀河は立ち上がると、私に一礼して空と一緒に部屋を出て行った。
去り際に、空はこちらをふり返って、鋭い目付きで警告した。
「俺が戻るまで、何者にも油断するなよ。」
(『何者にも』…。)
作品名:①銀の女王と金の太陽、星の空 作家名:しずか