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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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回転すし

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従業員3人と社長と呼ばれる青山の4人だけの小さな自動車修理工場。今の日本車はほとんど故障しないから、依頼されるのは車検が多い。その車検も競争で、単価は安くなっている。青山は2級整備士の資格があり、腕は確かであった。とは言え、修理の依頼が無いと、仲間から、仕事を貰わなければならない。ピンはねされる分収入は少なくなる。
 妻には32歳の時に離婚されて3年になる。仕事一途な青山は不精な性格で、妻が居る時はそれなりに、小奇麗なつなぎを着ていた。今は油と汗の浸み込んだ、臭いつなぎを平気で着ていた。夕飯もそのまま、高級車のシーマに乗って、回転すしや食堂に行く。慣れとは自分では気づかないのだろう、回転すしで女性が席を移ったのも、食べ終えたと思っているほど無頓着なのだ。
 回転すしを出ると、青山を待っていたのだろう
「自動車屋さんですよね。エンジン掛らないので観てください」
と40歳くらいの女が頼んできた。香水の強い臭いがした。派手な服装から夜の仕事関係だろうと感じた。青山は鮨を食うのにこんな女の隣に座ったら災難だろうと思っていた。
 車ははプジョーの新車の様だった。エンブレムのライオンのマークで分かった。
「一応エンジン掛けて観てください」
青山は汚れたつなぎで運転席に座っては嫌がられると思った。女はエンジンを掛けた。イグニッションスイッチが回らないようだ。
「ボンネット開けてください」
「分からないわ。頼んでいるのだからすべてやってよ」
「新聞紙も無いし、シートが汚れるかもしれませんが」
「そんなの気にしない」
と女は言った。
青山は多分バッテリーだろうと思い、自分の車からコードを持って来た。夏場はエアコンを停まったまま掛けて、バッテリーを消耗させることがよくあるからだ。青山の車を女の車に近づけたが、駐車の関係でボンネット同士で向き合わなかった。横につけることも出来ない。コードの長さが足りない。青山は左右の車の車種とナンバーをメモし女に渡した。
[店に行ってこの車の移動をお願いしてきて下さい」
「嫌よ。あなたに頼んだのよ」
 何と強引な女だろう。青山は仕方なく、店員に訳を言い、放送してもらった。
5分も待つと、若い男が来た。
「食事中済みません。お勘定は持ちますから、移動お願いいたします」
あらかじめ、駐車場所をスペヤタイヤを置いて確保していた。移動が終わると、青山は自分の財布から5千円を出し、男に渡した。
「足らなかったら電話して下さい」
「いいですよ」
「気持ち」
男が返した金を青山は男のポケットにねじ入れた。
「すみません」
男は何度もお辞儀をしながら店に戻った。
 コードを繋ぎ、女にはシーマに乗ってもらい、青山は女の車に座った。青山が窓から手を振ると、女はアクセルを踏み込んだ。青山はそのタイミングでセルを回した。ブ、ブ、ブルブルとセルが回り始めた
「少し乗らないと、エンストしたらエンジン掛らなくなりますから、充電しましょう」
「お店に行く時間が無いの。車交感して、明日行くわ」
 強引だ。女は青山に3万円を渡した。もちろん青山は高慢な女から目いっぱい請求するつもりだったが、困っている人を助けることに、金を請求しては男が廃ると思った。
 翌日女は青山の店に来た。シーマは女の香水の臭いが漂っていた。
「請求書は出来ました」
青山は充電代金1500円を請求した。
「おつりはいいわ」
と女は言った。受け取らなければ、強引な女のことだから、放り投げて行きそうな感じがしたので、青山は3万円の領収書を書いた。
青山はシーマに乗るたびに女のことを思い出した。
 青山が仕事を終えるとつなぎから着替えをするようになったのは間もなくであった。シーマから女の香りがいつになっても残っていたのは不思議なことでもあった。







作品名:回転すし 作家名:吉葉ひろし