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-(´Д`)→グサッ

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2.-(´Д`)→グサッ 後編



 ニヵ月後の休日のことだ……。

「お兄ちゃん、ボーナス出た?」
 
 来るんじゃないかと思ってた……。
 残業や飲み会で夜はあまり顔を合わすこともないのだが、朝はそうも行かない。
 長くなりそうな話ならはぐらかして逃げることも出来るが、この質問に対する返答は『YES』か『NO』しかないじゃないか……。

「出たよ、ほんのちょ~っとだけな」

 無駄な抵抗であることはわかっているが……。

「またお兄ちゃんとデートしたいな」
「奢らせたいな、の間違いだろ?」

 この場は一秒でも早く離れるに限るのだが……トースターの中で焼け目がつくのを行儀良く待っているパンが恨めしい。

「どうせ彼女いないんでしょ? 少し予行練習しておいたほうが良いんじゃない?」
「トキメかないと予行練習にもならないだろ?」
「トキメくような美人には相手にされてないんじゃない?」
「図星ですよ、グサッと刺さりましたよ、ああ、心が痛い」

 言いたい放題言いやがって……。
 身に覚えがないわけでもないから余計に堪える。
 受付の麗夏さん……しっとり落ち着いた感じで物腰も柔らかくて、ちょっとだけハスキーな声も魅力的なんだよな……左手の薬指にダイヤが光ってなければ玉砕覚悟で突進したんだけど……もっとも、あのサイズのダイヤなんてとてもじゃないけど手が出ないし、ダイヤで増幅された『幸せオーラ』は強力で、ほとんどバリアの様になってるけどさ。

「これ、どう?」
「ダメ、露出多すぎ」
「え~? これ位普通だよ、これより大人しいとスク水と変わらないよ」
「そう、カラフルなスク水にリボンとかついてれば充分だ」
「保護者みたい」
「父兄って言うくらいだからな、兄も保護者なの!」
「もう! お兄ちゃんに保護してもらった覚えなんてないのに」
 まったく、陽菜のほっぺたはぷくっと良く膨らむよ……。

 ウチの親父は特別収入が良いわけじゃないから、俺が大学四年で、陽菜が高校生になった去年は青息吐息だったのは知ってる、だから陽菜が去年水着を買ってもらえなかったのも知ってる……『そんなの知らん』としらばっくれようとしたが、陽菜から母親と押し問答してる時にその場にいたのを憶えてる、と先に釘を刺されては逃げようもない。
 親父は俺と陽菜のやり取りを聞いていながらしらばっくれてるし、お袋はさっさと食器の後片付けを始めるし……。

「じゃ、これは?」
「さっきのより布地が少ないじゃないか」
「そんなことないよ、だってパレオも付いてるし、これ着てみよっと」

 おいおい、さっさと試着室に入られちゃ追うわけにも行かないじゃないか。

「どう?」
「あ~もう勝手にしろ、俺は忠告したからな、お袋に小言言われても俺に振るなよ」
「やった! ありがとう!」

 こら、水着で抱きつくんじゃない……。
 不覚にも少しドキッとしてしまったじゃないか……もっとも、値札の方にはもっとドッキリしたが……。


「『カードで』って、カッコ良いよね。」
「そりゃどうも」
 今日はさすがに出費させすぎたと思ったのか、陽菜が昼飯に俺を引っ張って行ったのはハンバーガーショップ。
 俺には蜂蜜たっぷりのフレンチトースト屋や生クリームどっさりのパンケーキ屋より余程落ち着く……俺自身だけじゃなくて財布もほっと一息ついている。

「あたしも早くカードを使えるようになりたいな」
「銀行口座がないと作れないぞ、収入がないとな」
「だから早く働きたいの」
「大学は?」
「いい……家にそんなにお金ないの知ってるしさ、あたしの頭じゃせいぜい三流大学だしね、事務とかよりもショップとかの方が性に合ってる気がするし」
「なんだか悪いな……俺は大学行かせて貰ったのに」
「いいのいいの、お兄ちゃんは一応跡取りだもんね」
「ま、親父もサラリーマンだし、ウチは旧家でもなんでもないけどな」
「あたし自身も勉強好きじゃないし、いいんだ、高校出たら働くつもり」
「そうか……」
「お兄ちゃんはあたしよりも頭がいいから二流大学行けたしね」

 一瞬でも健気だなと思った自分が甘かった……わざわざ『二流』の所にアクセントをつけなくても……。

「学費を考えればワンピースや水着なんて安いもんでしょ?」

 はいはい、確かにね……まあ、こうずけずけ物を言っても角が立たないのが陽菜の良い所ではあるけどな……。

 妹よ、お前は特別に可愛い訳でも、スタイルが良いって訳でもないけど、カワイイお嫁さんにはいつかきっとなれるさ、平凡でもいいから波風の立たない、楽しい家庭を築いてくれ。
 俺も二流大学卒なりに頑張って、平凡でいいから明るい家庭を築いて、それを守って行くからさ……。
 ま、嫁さんにはお前よりちょっと位は可愛い娘が望みだけどね。


(終)
作品名:-(´Д`)→グサッ 作家名:ST