-(´Д`)→グサッ
1.-(´Д`)→グサッ 前編
「あ、あのお店のパンケーキ、ちょっと評判なんだ、あれもいい?」
「ああ? 今アイス食ってんだろ?」
「アイスはお腹に溜まらないもん」
「だけど、さっきもフレンチトーストがどうとか言って食ったばっかりじゃん」
「パンケーキは別腹よ」
「さっきの甘~いフレンチトーストとどう違うんだよ」
「フレンチトーストはパンでしょ、パンケーキはおやつだもん」
「勘弁してくれよ、すっからかんになっちまうよ」
「社会人の癖に? だらしないなぁ」
「社会人て言ったって、まだ給料二回しか貰ってないんだぜ」
「実家で暮してるんだから家賃も食費もただじゃない」
「残念でした、お袋にしっかり天引きされてるよ」
「だけどお給料貰ったばかりなんでしょ? もうなくなっちゃったの?」
「わかった、わかった」
「やった! たぶん甘くないのもあると思うよ」
「だといいけどな……」
今日は妹とデート中だ。
ロリだとか近親だとか言わないでくれよな、仕方なく付き合ってるだけなんだから……。
事の発端は今朝のことだ。
俺は今年就職したばかり、大学時代はのんびりしてたから、週に五日、朝から晩まできっちり働くペースにやっと慣れて来たところ、大学時代は昼近くまで寝ていることも多かったし、就職したての頃は疲れてやっぱり休日は昼近くまで寝ていた、だけど、最近は仕事にも少し慣れ、規則正しい生活が身についてきたのか、休日と言っても結構早起きになった、と言っても九時ごろなんだけどね。
で、今朝起きて来て朝飯のトーストを焼いていると、リビングのソファに足を投げ出すように座っている陽菜の頬がありえないくらいに膨らんでいる。
陽菜っていうのは俺の妹、六歳離れているから今年高二になったばかりだ。
「どうした? ふくれっつらして……デートでもすっぽかされたか?」
それを聴くと、ふくれっつらが見る見る泣きっつらに変わって行く。
やべっ、軽口のつもりだったが、どうやら図星を指しちまったらしい……。
考えてみれば、普段家に居るときは大体トレーナーかTシャツなのに、今朝は白いブラウスにチェックのミニスカート、ニーハイソックスと初夏らしい格好をしているのだ、それに加えて尋常じゃないふくれっつら……察してやるべきだった……。
「今日が初めてじゃないんだからぁぁぁぁぁぁ!……三回続けてデートの当日に都合が悪くなるってどういうことよぉぉぉぉぉぉ!」
みるみる涙がこぼれ始め、口も四角になって行く……。
そりゃ確かに相手の男が悪い……だけど二度目で察するべきだったな、妹よ……。
で、結局、声を上げて泣きじゃくる妹を宥めるために、今日デートするはずだったアウトレットモールに付き合わされる羽目に陥ったと言うわけだ……。
返す返すも察してやるべきだったよ……自分のためにも。
「シロップかけないの?」
「ああ、バターだけで充分だよ」
「シロップかけたほうが美味しいのに」
「何とでも言え、甘いフレンチトーストじゃ昼飯食った気にならないんだよ、だから俺はさっきおやつを食って、今昼飯を食ってんだ」
「お昼とおやつが反対なんて変なの」
「それはJKの価値観だろ? 社会人のは違うんだ」
「はいはい、奢ってもらってるんだからもう何も言いませんよ~だ」
「そう願いたいもんだね」
俺がそう返すと陽菜はニカっと笑った。
……へぇ、まずまず可愛いじゃないか……。
こいつを振る男の気が知れない……とまでは言わないけどさ、家で生意気ばっかり言ってる時とは少しは違って見えるよ、うん。
まあ、電車賃から始まって、夏物のワンピース、パンケーキにフレンチトースト、アイスにカフェラテと結構な出費にはなっちまったし、多少胸焼けもしているが、陽菜に笑顔が戻って良かったよ……そうやって笑ってれば陽菜が良いって言う奴はまた現れるさ……。
「お兄ちゃんってさ、話してて結構面白いから、もう少し気前が良ければモテると思うよ」
「左様でございますか、そりゃどうもお褒めに預かりまして……給料安いけどな」
「あ、それ、致命的かも」
……まったく……。
でも笑顔の陽菜を見てたら俺も彼女が欲しくなって来たし、貴重なアドバイスも頂いたんで、まあ、今日の出費は授業料と思うことにしておくよ……かなり痛かったけどね。
作品名:-(´Д`)→グサッ 作家名:ST