EMIRI どんなに素敵な昨日でも
第6章: マリアージュ
「お疲れさまです」
「こんにちわ。川崎さん」
「今日、予約が満員で6人もあるよ」
桧垣も今、学生相談室についたばかりだったのか、汗を拭いながら慌しくパソコンを立ち上げていた。カウンセリングは、15時から18時までの間に、30分毎に1件の予約を取っている。それぞれは15分程度だが、その内容を研究のためにまとめる時間も必要だ。こんな日は、桧垣とおしゃべりする余裕なんかないことを、恵美莉は分かっていた。
次々と来る相談者の案内をしながら、飛込みで相談に来る学生の予約を入れるのが恵美莉の仕事だった。しかし、今日は予約がいっぱいなので、次回の水曜日に来てもらうおうとするのだが、悩みを抱える学生はすんなりとは応じてくれない。そんな学生の話し相手になることもある。今日は長い3時間だと感じた。
18時の10分前、最後のカウンセリングを終えて、桧垣が溜息をつきながら、パソコンに入力している。
「次は川崎さんのカウンセリングしようか?」
「え?」
窓の外をボーっと見ていた恵美莉は、驚いて振り返った。
「なんか気になるよ。その表情」
「そりゃ、そうですよね。分かりますよね、先生には」
「別れた彼氏のこと? それとも新しい彼氏のこと?」
「・・・・・・」
「またご飯でも食べに行く?」
恵美莉は、髪を小指で耳にかけながら、がんばって作り笑顔をして頷いた。
作品名:EMIRI どんなに素敵な昨日でも 作家名:亨利(ヘンリー)