EMIRI どんなに素敵な昨日でも
「キッド。あたし、颯介と別れちゃったの」
日曜日の昼、奈美といつもの『千石』でモダン焼きを食べて、颯介のことをいかに吹っ切るか相談した。その中で、キッドにも電話しておいたほうがいいと言うことになったので・・・
「そうなのか。とても似合いのカップルだったのに。どうして?」
「外国に行っちゃったの」
「待てないの?」
「もう無理だと思ったから」
「そう、残念だよ」
「せっかくキッドが紹介してくれたのに、ごめんね・・・・・」
キッドこと木田博之は、中学1年の時から高校3年までの友達である。彼が紹介した幼馴染が村木颯介だった。キッド自身も恵美莉のことが好きだった時期があったことを、彼女も知っていた。
「じゃ、一回会わない? 俺でよければ力になるよ」
「今はそんな気分じゃないし、今週はいろいろとある様な気がして、気が重いから」
「うん、分かった。また、何かあれば連絡してよ」
「ありがとう。キッド・・・」
しかし、恵美莉はキッドに連絡をするのさえ、この日を最後にしようと思った。颯介との過去を完全に消し去るために。
月曜日の昼休み、どうしても恵美莉の気分は高まらなかった。
「絶対冷やかさないでよね!」
恵美莉はみのりに念を押した。
「わかった。わかった。もう大事な時期なのね」
「まだ分かんないけど、自分のタイミングってあるでしょ」
「何言ってんのよ。もうそのタイミングって感じだけど?」
週末にLINEでした約束のために、春樹と一緒に食事をするつもりだったが、その場にはやっぱり、みのりや小峠、佐々木もいた。皆、冷静を装ってカラオケの時のノリは無く、割りと淡々としたランチタイムだった。周囲は間違いなく恵美莉と春樹の動向に注目しているようだったが。
作品名:EMIRI どんなに素敵な昨日でも 作家名:亨利(ヘンリー)