EMIRI どんなに素敵な昨日でも
プロローグ
恵美莉は、さびしいと思った。
大学2年になった途端、7年来付き合った恋人と分かれることになったから。
その別れは、その日までに準備されたもの。
大学1年の夏に村木颯介は突然、カンボジアに行くと言い出した。知り合いから誘われ、現地での小学校設立の国際協力活動への参加を決めたと。
そのことについて、二人でよく話し合ってきた。7年間、ほとんど彼中心に生きてきて、中学から高校も同じ、大学までも。でもその彼が二十歳になってすぐ休学して、旅立って行ったのが先週のことである。
それを恵美莉には止められなかった。スーツケースに荷物を詰め込む手伝いまでして。薬や爪切り、忘れ物がないか気にしながら。
(ああ、どうしてなんだろう?)
空港行きのバスに乗る彼を見送って、初めて一人になったことに気付いた恵美莉は、生まれて初めて、さびしいと思った。
作品名:EMIRI どんなに素敵な昨日でも 作家名:亨利(ヘンリー)