詩⑤
鉄格子に爪を立て 城下を見下ろす
冷たく降る雪の中を行く旅人に槍を飛ばしたくなった
不自由さを誰かのせいにしなくては悔しかった
暇を持て余して積んだ古書も埃に塗れている
この国では死を選択することが罪だ
忽ち遺伝子を根絶やしにされる
家族などとっくにいなかったけれど
せめて一度でもあの空の下を歩いてみたかった
母は病に臥せ 父は後を追った
残された子供は断罪を避けるため
居ないものとされた
君はここから出てはいけないよ
最後に残された言葉を守り
今日も行く人を憎む
僕はここにいるんだ 誰か見付けて下さい
耐えきれず 槍を飛ばした
月日が過ぎ去り 扉がノックされた
駆けずり走る 足を引っかけ転げる
寂しそうに 花を突き刺していました
大きな瞳が凛として言葉を発した
ところで見ない顔ですね
不思議そうに少女は言った
涙を強く堪えて 顔を綻ばせた
見付けてくれてありがとう
受け取ったそれには
愛しの父と母の名が刻まれている
この槍の様に強くまっすぐ育つように
何かあれば身を守る様にと
側に居てくれるような気がした
たったそれだけが 僕の家族だった
そっと立てかけ 初めての客人をもてなす
けれどもう いつ死んでもいいような気もした
今日という日が全てを満たした
ああ 僕は生きてることを知ってほしかった
たったそれだけだったんだ
通り過ぎる旅人を恨んだのも なにもかも