おいしいね
家に戻ると、手洗いをした女の子は、ソファに腰かけた母親を見つけた。
手には、哺乳瓶を持っていた。
「ミルク?」
「そうよ。かなちゃんやおかあさんはおなかいっぱいになったけど、たっちゃんはお腹空いているからね」
「そっか。ごめんね」
「かなちゃんも手伝ってくれる?」
女の子は、母親のいうことがどういうことかわからなかった。
母親は、自分の膝に女の子を座らせると、その膝の上に赤ん坊を乗せた。
「吸い口をおくちいっぱいに入れてあげてね」
母親と手を重ね、哺乳瓶で弟にミルクをあげた。
女の子は、背中には母親の温もりと柔らかさを感じ、膝の上にはちょっぴり重く、でも大好きな弟を乗せて いっしょにミルクを飲ませた。
「あ、ずるい! いいなぁ……。まるで親子寿司みたいだ」
「たっくん、おいしいね。 大きくなったらいっしょにおすし食べようね」
女の子は ごくりごくりと飲むたびに哺乳瓶内にできるミルクの泡を見ていた。
弟のごはんが終わったら、母親に「牛乳飲みたい」とお願いしようと思った。
― 了 ―