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おいしいね

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男性が、自動ドアの前で立ち止まると隣の女の子に言った。
「見ててごらん。おとうさんはドアに触れないで開けてみるぞ」
女の子は、男性を見上げて頷いた。
「うーん。うぅーん」
「ほらぁ、ほかのお客様(ひと)の迷惑よ」と一緒にいた女性が急かした。
「まあ待て。力が…」
硝子に手をかざし、窓ふきのワイパーのように手を振ると目の前の自動ドアが開いた。
それを見て 女の子より先にその女性が声を上げた。
「え?すごい。え?なんで触ってないのに開くの?」
その驚きようは女の子への見せかけのものではなく、その女性そのものの表情だった。
「おいおい、きみが驚いてどうする?」
「おとうさん、すごい」
男性は、まだその不思議を訊きたがっている女性の背中に手をかけると にこやかな表情で店内に促した。
「ほら とりあえず入ろう。なぁ、おかあさんは可笑しいでちゅね」
男性は、女性の腕の中でくりっとした目を開けている男の子に話しかけた。

父親である男性とまだ乳飲み子を抱っこした母親、そしてふたりの子どもである女の子とその女の子の弟。そういう家族連れだった。

「いらっしゃいませ」
入り口付近のカウンターで 店内の案内をする為に女性店員が声をかけた。
「何名様でいらっしゃいますか?」
「四人。大人二人と子どもと赤ん坊だけど」 
「カウンター席とテーブル席のどちらがよろしいですか? カウンター席ならば すぐにご案内できますが…」
男性が、一瞬店内を見渡した。
「あ、ボックスのテーブル席がよさそうですね。少しお待ちいただければご用意できます」
今さっき、食べ終えて離席した場所の片付けをしているところがあった。
「助かります。お願いします」
男性は、赤ん坊を抱いた女性と女の子を待合の席に着かせるとその横に立って待っていた。
「ねえ。みんなドアの板の所に触っているのに どうしてあなたは開いたの?」
まだ 不思議な疑問から抜け出せない女性が 小声で訊いた。
「え、まじで?」
男性は、ドアに触れるのではなく、ドアの脇にあるセンサーでの反応だと謎解きをすると女性は「知らなかったわ」と笑った。腕に抱かれた子も笑った。 

作品名:おいしいね 作家名:甜茶