Planet of Rock'n Roll(第二部)
5.ロックン・ロール・サプライズ!
国連事務総長、通称ルイ。
彼が三国の指導者に持ちかけたのは、三大バンドのライブを衛星中継で世界中同時に放映すること。
三国の中で最も強硬な姿勢をとっていた中国ですら、政府の体面上、対立する国の人気バンドのライブを中継する等と言うことはおおっぴらに許可できないでいただけ、もはやスターズ&ストライプスを、ベア・ナックルを見たい、聴きたいと言う人民の欲求は抑え込み切れないほどに膨らんで来ていて、対処に苦慮していただけに、その要請はむしろ渡りに船、国連事務総長からの要請だから、となれば大義名分もできるというものだ。
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各国の主要メディアは中継の準備を進め、セントラルパーク、天安門広場、赤の広場には特設ステージが準備された。
TVで見るだけでは満足できない、とばかりに世界中でパブリックビューイングが計画されてその準備も着々と進められている。
スターズ&ストライプス、ドラゴン・クロウ、ベア・ナックルの面々もリハーサルに余念がない、そして密かに示し合わせたサプライズの仕込みにも……。
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迎えた世界同時中継ライブ。
オープニング映像が流れ出すと、期待に胸膨らませた七〇億の心臓の鼓動が一つに重なる。
5……4……3……2……1……。
♪ジャーン♪
チャーリーのギターが息を詰めて見守っていた七〇億の呼吸を解放した。
一番手はスターズ&ストライプス、チャーリーのギターにエディのベースが、ビルのドラムスが絡み、そこにチャックのサックスが被さると地球が爆発した。
セントラルパークはもちろんのこと、世界中のパブリックビューイング会場の、そしてテレビの前の人々が興奮の渦に巻き込まれたのだ。
チャーリーのギターは軽快なリズムを刻み、エディはウッドベースを独楽のように回して見せて聴衆を煽る、ビルは正確でスピード感溢れるリズムを刻み、チャックはサックスを思い切りブロウしてサウンドに厚みを加える。
それに加えてマリリンのダイナマイトダンス!
七〇億人の心はスーパーボールのように弾んだ。
一曲目が終わり、大歓声が巻き起こる中、その大歓声の渦を衝いて一頭の龍が天空へと翔け上がって行く。
二番手はドラゴン・クロウだ。
国の体制ゆえにベールに包まれた部分も少なからずあったドラゴン・クロウだったが、この時、世界中にその雄姿を現したのだ。
馬聖のギターは力強く奔走し、中国語によるヴォーカルもエキゾチックな味わい、王玄徳のドラムスが自在に疾走る代わりに趙雲徳のベースが堅実なリズムをキープしてバンドサウンドを支え、エルビスの腰は目にも止まらぬ高速で回転する。
そしてそのリズムの荒波の上を、二胡の弦から踊り出た龍が、時に疾く、時に悠々と舞い、雲を成し、雷鳴を轟かせて七〇億人のハートを痺れさせた。
一転して、ピアノの音色が人々の痺れたハートを優しく包み、哀愁を帯びた音色のバラライカがギュッと締め付ける。
三番手はベア・ナックルだ。
叙情的なイントロから一転してバラライカがキレの良いリズムを刻み、イーゴリの野太く力強いヴォーカルにユリアのピアノがぴったりと寄り添う、そして伝説のギタリスト、エリックのギターに加え、ポール・マッカーシー直伝のボリスのベース、アレックスのドラムスはバラライカの切れ味に負けないリズムを刻み、メロディアスなスローパートもじんわりと包み込んでサポート、ジーン・ケリーとこぐまのミーシャも軽やかに舞い、世界中から喝采を浴びた。
一曲ごとにバンドが交代しての世界同時中継ライブ。
湧き上がった歓声はグランドキャニオンに木霊し、熱気はシベリアの永久凍土を溶かし、踏み鳴らす足は万里の長城を震わせる。
三時間あまりのライブは地球をかけめぐり、あっという間に時計の針を進めた。
「馬聖! イーゴリ! 聴いてるか!?」
「ああ!」
「おう!」
チャックの呼びかけに馬聖とイーゴリが応える。
「ゴキゲンだな!」
「ああ! 最高だ!」
「スピリタス・ウォッカより効くぜ!」
「だが、お楽しみはこれからさ! 一丁、例のヤツをやろうぜ!」
「「おう!」」
密かに仕込んでいたサプライズ、そのびっくり箱を開ける時だ。
始まったのは三つのバンドの、衛星中継を利用してのジャムセッション、三本のギター、三本のベース、三セットのドラムス、そしてサックス、胡弓、バラライカ、ピアノがぶつかり合い、絡み合い、溶け合ってスリリングなグルーヴを引き起こす。
曲はエルビスの代表曲の一つ、『監獄ロック』だ。
バンドは躍動し、マリリンが、ジーンとミーシャが、そしてもちろんエルビスが踊り狂う。
そして、それは各国の指導者たちも若き日に心躍らせた曲でもあり、彼らも自然に体が動き出すことを抑えることが出来ない。
ロックン・ロールはアメリカで生まれた音楽、しかし、それはアメリカが移民の国だから、人種の坩堝だからこそ生まれたもの、様々な民族による様々な文化がぶつかり合い、混じり合ったからこそロックン・ロールはこの地球に生まれたのだ。
サプライズは一曲では終わらない、『監獄ロック』で踊り狂った人々は、ロックン・ロールにアレンジされたロシア民謡、『カチューシャ』の軽快なテンポと哀愁を漂わせながらも明るさを失わないメロディに酔いしれた。
エルビスとマリリン、そしてもちろんジーンとミーシャのコサックダンスも大ウケだ。
そして中国からも一曲、二〇〇〇年代に世界中で注目された民族楽器バンド、『女子十二楽坊』の代表曲、『自由』。
胡弓のパートはもちろん季天竜だが、琵琶のバートをイーゴリのバラライカが、中国琴のパートを三本のギターが、笛のパートをチャックのフルートが、それぞれ受け持って楽曲に新たな命を吹き込み、七〇億人の興奮は最高潮に達した。
一転、その興奮を鎮めるようにユリアのピアノが響き、三人のドラマーはスティックをブラシに持ち替えて、フォービートを穏やかに刻み始める。
胡弓がそれに続き、バラライカが加わり、サックスが語りかける……。
『ワット・ア・ワンダフル・ワールド』だ。
ベトナム戦争を憂いて作られ、サッチモことルイ・アームストロングの名唱で世界中に知られた曲、自然の美しさと人々の心の絆を歌い上げた名曲を、チャーリーが英語で、馬聖が中国語で、イーゴリがロシア語で歌い上げる……そして、その時、地球は紛れもなく一つになった。
民族の違い、文化の違いは当然ある、しかし、それはぶつかり合い、溶け合い、刺激しあって新たなものを生み出すエネルギーになる。
そして、それを妨げているのは政治体制と火薬だ。
ジャムセッションを通じて七〇億人がそれを実感した瞬間だった。
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「みんな最高だ! 今度は衛星中継じゃなくて同じ場所でセッションしたいな!」
「ああ! バトルはバトルでも、こんなバトルなら何時だって大歓迎だ!」
「ミサイルの飛び交うバトルはもうゴメンだがな!」
作品名:Planet of Rock'n Roll(第二部) 作家名:ST