Planet of Rock'n Roll(第二部)
1.バーチャル会議
龍と星条旗は走り出した、残るはロシアの熊さんだけなのだが……。
「進捗状況の報告をしてくれ」
定例のバーチャル会議、ボギーはいつものように、そう切り出した。
「おいらの方はゴキゲンだぜ、バンドのメンバーも決まったし、練習場所も確保できた、おいらの出る幕なんてなかったくらいさ」
「マリリンの方はどうだ?」
「こっちも順調よ、メンバーは決まったわ、練習場所は夜遅くならないと使えないからちょっと不自由だけど、それぞれプロのミュージシャンだからテクニックを上げるための練習は必要ないの、だからそこはたいした問題じゃないわ……でも、どうやらボギーの方は問題ありそうね」
「わかるかい?」
「ええ、ボギーの顔を見ればね、だって苦み走り過ぎてるもの、ほとんど泣きそうに見えるわよ」
「そうだろうな……実を言うと困り果ててる」
「メンバーが見つからないのね?」
「ああ、イーゴリの知り合いと言ったら民族音楽ばかりだし、ユリアの方はクラシックばかりだ、ロックン・ロール・バンドのメンバーにはまるで繋がらない……」
「その歯切れの悪さは、まだ別の問題がありそうに聴こえるぜ」
「ああ……その上、あの二人……仲が良いのは良いんだが、メンバー探しよりもデートに夢中なんだ」
「まあ、素敵」
「おいおい、マリリン、他人事だと思ってないか?」
「ごめんあそばせ……でも無理もないわよ、二人にとってはバンドのメンバー探しって、雲を掴むような話だし、顔を見合わせれば愛しい人の顔がそこに在るんだもの」
「だがな、マリリン、三つのバンドはほぼ同じ時期に人気を集めないと、俺たちの計画は上手く行かないんだぜ」
「確かにそうね…………あ、そう言えば……」
「何だ? 何か心当たりでもあるのか? 教えてくれ、正直なところ藁にもすがりたい気分なんだ」
「あのね、ポールに聞いた話なんだけど」
「ポール?」
「知らない? ポール・マッカーシー、元ビートル・バンドの」
「知らないはずがないだろう? だけどマリリン、どうして君が彼と知り合いなんだ?」
「知り合いって程の事もないけど……彼ね、今はアメリカ在住なのよ、でね、レストランで偶然見かけたから『サインをいただけないかしら』って近づいたら、隣の席を勧められてね、飲み物も勧めてくれて……」
「つくづくその姿は便利だな」
「そうなの、ずっとこのままでいたい位……でね、その時に耳寄りな話を聞いたのよ」
「どんな話なんだ?」
「ポールがね、モスクワの赤の広場でコンサートをやった時ね、サインを求めて来た政府高官がいたんですって」
「それが、どう耳寄りなんだ?」
「ちゃんとお終いまで聴いてよ……で、その時に意気投合して、『実は学生の頃、ビートル・バンドのコピーバンドをやっていた』って言うんで、例のヴァイオリンベースをプレゼントしたら凄く喜んだんだって……あのね、ロシアがまだソ連だった頃って、表向き欧米の音楽は禁止されてたの、だからその高官くらいベテランのロック・バンドって他にいないのよ」
「しかしな、もう相当な歳だろう?」
「うん、そうなんだけど、バンドは今もやってるの、ポールはその高官とは今も親交があって、最近凄いギタリストが亡命して来てて、そのバンドを指導してるらしいって教えてくれたわ」
「そのギタリストとは?」
「エリック・ペイジ、元クリーム・ツェッペリンの」
「そりゃ大物だ……」
「でしょ? 中国もそうらしいけど、ロシアも表向きロックバンドは活動できないんでしょ? だったらそのバンドを探し出してイーゴリたちと会わせてみる価値はあるんじゃなくて?」
「その高官の名前はわかるかい?」
「フルネームはわからないの、ポールは『ボリス』とだけ呼んでたから」
「ああ、そこまで分かっていれば多分大丈夫だ、何とか探してみよう」
「頑張って」
「ああ、来週、君たちと笑顔で話せるように、幸運を祈っててくれ、そうでないと俺はM星初のアル中患者になってるかもしれないからな……」
(続く)
作品名:Planet of Rock'n Roll(第二部) 作家名:ST